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新井敏弘は、PCWRCニュージーランド戦で、新型インプレッサ グループNのデビューを鮮やかな優勝で飾った。そして、後続のグループNカーを2分以上引き離し、WRカーの一群に食い込んだ新井と新型インプレッサは、世界の注目を集めることとなった。

市販車からの改造がきびしく制限されるグループNでは、ベース車のポテンシャルがリザルトを大きく左右する。このデビューウィンは、新型インプレッサWRX STiの高い戦闘力を早くも実証したと言ってよいだろう。積年のWRC経験からフィードバックした技術を惜しげもなく注入し開発された新型インプレッサ、そしてスバルプロダクションラリーチーム(SPRT)が製作したグループN車両の実力を以下検証しよう。

3月にFIAのホモロゲーション(競技車両公認)が交付されたばかりの新型インプレッサ グループN。基本の車種は、インプレッサWRX STiだ。フロントのエアロバンパー、大型リヤスポイラーが外観上の特徴である。
新井車は、新井が永年WRカーで慣れ親しんだ左ハンドル仕様となっている。また、クルーの快適性を確保するために追加公認を受けたルーフベンチレーターが印象的だ(※)。
加えてグラベルラリー用として、オリジナルのWRX STiには設定のない15インチホイールと小径ブレーキシステムが使えるように、追加公認されている。
市販の新型インプレッサの特徴は、空力特性や冷却性能の向上、そして大幅にリニューアルしたエンジンだ。中でもEJ20型ボクサーエンジンは、ツインスクロールターボ化され、低速からのトルクが増大したことで実用域でのドライバビリティが一層向上している。ラリーでは、加速性能の向上が特に貢献度大である。エアリストリクターで吸入エアの総量が制限されるため、最大出力はどのグループNカーもおおよそ同等となる。よって、STI製ニューリストリクターと吸気ダクトのマッチングによるピックアップの良さや加速性の良さは、新井車の最大の武器となっている。実際新井は、「中低速コーナーでは、一段高いギヤでもアクセルを踏んでいけるし、ニュージーランドのようなハイスピードグラベルでは、立ち上がりから早くスピードを乗せる必要があるので、加速性能の改善はかなり有効です。コースによっては02モデルのインプレッサと比べて最高速で10km/h以上差がつくこともありますね」と語っている。
トランスミッションは、1速スタート以外のクラッチ操作が必要ないドグタイプを採用している。これによって、左足ブレーキが可能となり、コーナー手前ギリギリのブレーキングとスロットルワークの連動によるマシンコントロールができるようになっている。
マフラーにメインサイレンサーは、ついていない
安全燃料タンクと燃料注入ジャック。
横方向の補強バーの前に搭載されている
エンジン関連では、エキゾーストマニホールド以降の排気系は改造が自由となっているが、排気音量などはラリー開催国の国内法が優先するので、新井車にはプリサイレンサーが装着され、騒音を防止している。

燃料噴射量や点火時期をコントロールするECU(エンジンコントロールユニット)もレギュレーションで交換できることになっている。しかしながら、エントラントのコストを抑制するため、追加センサーの設置やエンジンの稼動状態を記録・解析するデータロギングシステムの追加装備は禁止されており、新井車のインパネには標準仕様と同じスピードメーターと回転計が配置されている。

新井車には、トランク部の破損や万が一ロールオーバーした際に燃料タンクが破裂しないように、安全燃料タンクが装着されている。このFIA公認の安全タンクは、破れにくく変形しやすい樹脂で成形されたフューエルセルがアルミやカーボンのボックスに収められているもので、新井のインプレッサでは、トランク内のホイールアーチ間にマウントされ、燃料補給のためのワンウェイジャックとブリーザーバルブがトランク内についている。

新井車は、もちろんハンドリングの良さを大きな武器にしている。縦置き低重心エンジン、シンメトリー配置の4WDシステムというインプレッサの基本シャシーレイアウトが、生まれながらにして高い走りのポテンシャルを持っていることは広く知られている。また、リヤのロアアームが長く、サスペンションストロークが大きく取れるアドバンテージは先代から引き継いでいる。そして、サスペンションのセッティングに関しては、長くインプレッサの成長と共に世界を歩いてきた新井には一日の長がある。グループNのレギュレーションでは、サスペンションについては取り付け方法、形式、数量を変更しなければ、ショックアブソーバーとコイルスプリングの交換はOKなので、新井車の場合は、別タンク式ストラットを選択している。このガス封入式別タンクで伸び側・縮み側の減衰力を微調整するのだが、新井インプレッサではリヤ側のタンクを室内のロールケージに固定し、調整しやすくしている。
   室内に固定したストラットの別タンク
サスペンションを正しく機能させるには、シャシーの剛性の高さが求められる。モノコックに高いストレスがかかってねじれているときに、サスペンションの支持点が一緒になって不安定であると、サスペンションユニットが正しく伸縮できないばかりか、タイヤが路面をきちんとグリップできないからだ。ラリー車はこれを防ぐために各所に補強材を取り付けるのだが、こういった付加物が増えれば車重が重くなり、総合的な戦闘力は相対的にダウンしてしまう。車内に張り巡らしたロールケージは、クルーの安全を確保するためだけでなく、モノコックの剛性アップのためにも使われているが、いずれにしても重量増とのバランスが必要だ。この点、新型インプレッサ本来のシャシー剛性の高さは、競技車両向きだといえるだろう。

新井は、「ニュージーランドは高速セクションが多いだけでなく、路面が固い上にかまぼこ状になっており、セオリーどおりにインに入っていくとクルマの挙動が急変することがあります。また、ジャンクションなどで突然路面のミューが変化し、車体が大きく振られることもあります。サスペンションのセッティングはかなり重要ですし、余裕をもって突発事項に対応できることが大事ですね」と語る。
心強い武器であるニューエンジン、シャシー剛性の高さなど、新型インプレッサはさらに「頼もしい」市販車に進化した。そして、世界各国のあらゆるラリーコースを走って鍛え上げられてきた、いわば「公道順応走破性」というべき、SUBARU独自の味付けが新型インプレッサの強みであり、素性だ。

新型インプレッサとともにある新井敏弘は、日本人初のFIA世界チャンピオン獲得に向け大きな一歩を踏み出した。

写真・文:スバル・モータースポーツマガジン編集部
プロダクションカー
世界ラリー選手権(PCWRC)
  グループNクラスのFIA公認ドライバー選手権。WRCの兄弟シリーズとして、ジュニア世界ラリー選手権(JWRC)とともに2002年からスタートした。03年シーズンのPCWRCは、スウェディッシュ、ニュージーランド、アルゼンチン、キプロス、ドイツ、オーストラリア、ツール・ド・コルスの7戦が組まれており、このうちドイツとコルスがターマック となっている。シリーズエントリーしたドライバーは、このうち6戦に出場するよう定められており、6戦のポイント合計で世界チャンピオンが決定する。
グループN
  市販車がベースとなる。規則にそってさまざまな部分がコンペティティブに変更できるWRCのワールドラリーカー(WRカー)とは異なって、改造が厳しく制限されるため、ベース車の素性の良さとポテンシャルが大切となる。ただし、市販車とはいってもどんなクルマでも参加できるわけではなく、前提となるベースモデルを連続する12ヶ月間に2500台以上生産し、その公認を取得する必要がある。

※ルーフベンチレーター
WRカーは軽量化のためルーフベンチレーターを廃止し効率的にキャビンに送風する特別な換気システムを採用しているが、グループNでは改造が制限されるためルーフベンチレーターを追加公認申請した。

>> プロダクションカー
    世界ラリー選手権(PCWRC)

>> インプレッサGr.N
    SPRTカラースキーム
    新井・サーカム車

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