NURBURGRING 24H RACE

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2017.05.12

最大の特徴は十分なテストによるパフォーマンス検証です。

STIパワーユニット技術部 パワーユニット設計課 課長 柳岡寛典
先日のニュルブルクリンク予選レースでは、6時間レースの最終段階でSUBARU WRX STIは走行を中断し、フィニッシュラインをクロスしていません。原因はエキゾースト関連のトラブルでした。決勝レースでマイナートラブルが出ては連覇の目標が心配です。その疑問を解消するため、本番の24時間レースまであと2週間に迫った5月中旬、東京・三鷹のSTIヘッドオフィスを訪ね、エンジンを取り巻くパワーユニット全体の開発をリードした柳岡に話を聞きました。
- 予選レースの不具合は何だったのでしょうか。

柳岡 ご心配かけて申し訳ないです。実はフロント側のエキゾーストパイプにクラックが入り、そこから漏れた排気ガスによってマシンの左フロント部の温度が異常上昇している、ということがわかりました。走行中のマシンとピットはデータ通信を行なっており、そういった異常はピットで把握できる仕組みになっています。応急処置を施してピットアウトさせましたがその傾向は減少せず、二次的なトラブルの原因にもなりかねないため、走行を切り上げる決断をしました。過去にはあまり発生していない部位のトラブルでしたが、その後その部分の補強を施したパーツを作って現地に送っているので、(決勝レースでは)同じトラブルは発生しないと読んでいます。長年ニュル挑戦を続けているのに、なんでそんなトラブルが起きるのか、と思われる方もいると思いますが、よりパフォーマンスをあげ、より安定した走りを実現するためには様々な技術的チャレンジをしており、それらがこれまで未知の現象を起こすことがあります。だからこそのテストであり、それを怖がっていては進歩が望めません。今年はベストラップ9分切りを目標にしていますし、クラス三連覇をかけてライバルよりもアドバンテージを稼がなければなりません。ライバル達も何もしないで手をこまねいているわけではないからです。チャレンジの結果でたトラブルは原因を追求し、ひとつひとつ解決していけば良いと思うのです。 
- ではラップタイム9分切りは実現可能でしょうか。今回は9分2秒まで詰められましたね。

柳岡 もう少し時間があり、エキパイのトラブルが出なければそのタイムには届いていたかもしれません。事実、各セクターのベストタイムをつなげていく理論ベストラップでは9分ジャストまで出せています。レースウィークの路面や天気などの条件次第ですが、予選中またはレース中に8分台のタイムを出せる可能性は十分あると思います。去年突然課せられたエアリストリクターによるパワー制限で、ドライバー達はいつだって「モアパワー」と言いますが、エンジンパワーだけでなく、空力やシャシー側にもタイムアップを望める余地はあります。それらを総合して目標に近づけられれば良いし、それよりもクラス優勝するために設定した平均ラップタイムや周回数をきちんとクリアしていくことが肝心です。予選レースではライバルチームもかなり頑張って短いピット作業時間でマシンをコースに戻していました。我々もその領域で遅れを取るわけにはいきませんので、ディーラーメカニックのみなさんを含めてチームが全員集合したのちは、ピットワークトレーニングを繰り返して作業時間短縮を図っていくことになると思います。
- SP3Tクラス三連覇を果たすために最も肝心なことはなんだと思いますか。

柳岡 それはなんといってもエンジンとパドルシフトの協調につきると思います。パドルシフトの特徴として、エンジン全開のままシフトアップができるため、変速のためのタイムロスがないということになります。そのアクションに合わせてギアボックスを作動させているわけですが、何かの外的要因などでタイミングがずれるとうまくシフトできないことがあります。その協調ミスを根絶することに今回は時間をかけています。そのため、3月のシェイクダウン以降、富士スピードウェイで4週連続の走行テストを実施しています。富士ではかなり煮詰めることができましたが、気温や使用ガソリンの質も異なるニュルで検証しておかないと元も子もないので、先日の予選レースの走行機会を使って、反復テストとデータ収集を十分行なっています。それについてはかなりうまくいったと自負しています。パドルと組み合わせるギアボックスについてもハードな使い方をするので、ロングランの耐久テストを実施しています。常用域では相当な頻度でギアを駆使しますので心配はあったのですが、想定するレース全長の1.5倍の距離を走っても壊れないという手応えは掴んでいます。なので、私的にはエンジン、パドルシフト、ギアボックスのテストはもうすでに十分行なえていると思っています。実はさらに現地ニュルで、フルコースを使った最終テスト走行を来週予定しており、それが終了すればクルマそのものの準備はほぼ完了します。やれることはみんなやりきった、今はそういう心境ですし、ドライバー達の発奮に期待しているところです。


柳岡寛典


1998年富士重工業入社、以来エンジン設計一筋のエンジニア。軽エンジン、レガシィ系エンジン、エンジン補機類の設計担当を歴任し、2015年からSTIへ。コンプリートカーのパワーユニット設計を経て、2016年からNBR用エンジンの開発を率いることに。「これまで量産車開発で培った知見を活用し、NBR車開発でも経験が活かせると思います。

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