12月25日(水)、富士スピードウェイにてSUBARU/STIによるSUBARU WRX STIニュルブルクリンク24時間レース(以下NBR)仕様車の開発テストが行われ、これにて年内の開発試験日程は終了となりました。
11月のテスト走行以降、空力デバイスの開発やフロントサスペンションのジオメトリー見直し、ガソリンタンクへの給油スピードの改善、新しいABS制御プログラムのインストールなどの開発メニューが個別に進行し、この日それらを盛り込んだ車両でのテスト走行となりました。走行枠は、午前30分間x2本、午後も30分間x2本の合計2時間。井口卓人がステアリングを握り、タイヤのロングランを含め各部のチェックを進めました。
空力関係としては、前回テストで試したフロントトレッドの短縮に伴うフェンダー形状およびエア抜きルーバーの形状見直し、リアウィングの支持方式の変更などで、これによってフロントのダウンフォース増加、エンジン房内の冷却、車体後方へと流れる空気の整流などを見込んでおり、コンピューター上のCFD解析ではよい結果が出ているとのこと。今回のテストで問題点がなければ、年明けに予定されている1/1風洞での実測を経て最終仕様となる予定です。
また、フロントのサスペンションジオメトリーは、アップライトなどを新設計のものに置換することで、コーナリング時のフロントの転舵抵抗やロールを適正化しようというもの。午前1本目の走行を終えたのち、ドライバーの井口は「フロントの動きはとてもスムーズになったと思います。スプリングレートなどは変えていないのにフロント部が硬くなったと感じました」と印象を語っていました。
STI総監督の辰己英治は、「ロールセンターを上げてやれば、ロール量が抑えられると同時にしっかり感が生まれるものです。井口のコメントは見込んでいた通りと言えるでしょう。ここからバネをソフト方向にもっていけば、乗り心地もよくなるはずです。ただ、ステア特性は、ここだけで改善する話ではなく、前回のテストでリアサブフレームの取り付け部の剛性をあげたものがドライバーから不評だったので、それを元の仕様(2019年レース車)に戻してテストしており、様々な組み合わせによって変わってきます。なので、今回は新メニューをいっぺんに盛り込み、全体のバランスを見ながら適正セットアップを探っていこうとしています。また、新しいABSの制御プログラムが非常に優秀です。今年の仕様からは制御の緻密さが進化しており、高速からのフルブレーキが多いニュルでは特に有効で、グランプリコースではもちろんのこと、路面のμ(摩擦係数)が低い北コースでも大いにタイムアップに貢献してくれると考えています。私自身もスバル群馬製作所内テストコースでフルブレーキングテストを実施してみましたが、緻密に制動制御されていることを実感しています。また、燃料タンクも給油タイムロスを短縮する改善を行っていて、これはすでに期待する性能が発揮されていることを確認済みです。一回の給油で数秒〜10秒でも縮まれば、一昼夜で15回ほど給油するので、かなり有効です」と語っています。「まだ装備はしていませんが、クラッチへの負担を軽減するためピットスタート時のエンジン回転を状況に合わせてコントロールするローンチシステムの導入を考えています。24時間レースでは、考えられるリスク回避策を可能な限り取り入れておく必要があるからです」と辰己総監督は続けました。
ドライバーの井口は、「明らか進化を感じました。それは特にロールセンターの修正が効いていると思います。今年のNBRではクルマの動きが大きくて、時として悪い影響を与えていたので、今回の改善でロール感も抑えられて(適正な)車体姿勢が作りやすくなったと思います。反面硬さが気になるので、しなやかに操れるようバネやスタビを調整してもらっています。ABSの介入についても改善されていて、ニュルでは効果が高いでしょうね。良い感触で改善が進んでいることは間違いないです」と語り、辰己総監督は、「今日のテストはとても順調で、狙ったところに向かっていると思います。ハンドリングもABSの改善も思い通りに進んでいます。ロールセンターをあげたことで、ロール剛性をソフトな方向に持っていけることがわかりました。ソフトすぎてもダメなので、スタビバーやスプリングの組み合わせで解決できそうです。もちろんダンパーの調整も含めてですね。タイヤへの攻撃性も許容の範囲内だし、今回の走行はスポーツ走行(一般車両との混走)なのでタイムはまだまだですが、ニュル決勝レースでの1スティント常時9ラップの目標は見えてきましたね」と語っています。
年明けは1月10日(金)から幕張メッセで東京オートサロンが行われます。SUBARUブースでは、2019年仕様のWRX STI NBRレースカーも展示される予定です。東京オートサロンをお楽しみに。