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86/BRZ
2020.12.09

久保凜太郎チャンピオンストーリー

86/BRZレースシリーズ SUBARU BRZ初のシリーズチャンピオン

SUBARU BRZ初のシリーズチャンピオンを実現した久保凜太郎。BRZでの参戦は6年目だが、TOYOTA 86で初年度からエントリーしており、若手ながら参戦数は多い。CG ROBOT RACING TEAMは2020シーズン、ドライバーラインナップを変更した。これまでチームのエースであった井口卓人がチームを離れ、代わりに手塚祐弥がチームに加わった。手塚は栃木スバルチームから参戦した経験もあり、2016年にはクラブマンシリーズでシリーズランキング2位を獲得している若手ドライバーで、久保よりも1歳年下となる。つまり久保は、2020シーズン、CG ROBOT RACING TEAMのエースとなった。マシンのセッティングをリードし、走りにアドバイスをしてくれる井口の姿は、もうチームにはない。当然、エースとしての役割を果たす必要があり、その意識の変化が彼の走りにどう影響するのか。レーシングドライバーとしてさらに進化するためのステップになることが期待された。
開幕戦となったスポーツランドSUGOでは、久保が乗るBRZ 87号車はスポーツ走行で好調さをアピールしていた。今シーズン導入したニューマシンは、単に上位のタイムを記録しただけでなく、最終コーナーから続くストレートの前半登り区間でも力強さを感じさせてくれた。これまでのシーズンは、CG ROBOT RACING TEAMはレースが進むにつれてパフォーマンスを上げていく、いわばスロースターターだった。このあたりはエース井口がニュルブルクリンク24時間耐久レースで忙殺されてしまっていたことも、無関係ではなかったことだろう。「やっと勝負できるマシンがきた」と久保は控えめに答えてくれたが、開幕戦で明るい表情だったのはもしかすると初めてかもしれない。その開幕戦の予選、朝まで降り続いていた雨は上がったものの、その代わりに霧が立ち込めていた。しかもタイムアタックが始まるとすぐにクラッシュが発生、赤旗中断となった。再開されたものの、霧は酷くなりセッション途中で天候不良により赤旗中断。そのまま予選終了となった。こうした混乱した状況で結果を残すのは、強いチームだ。久保はしっかりと4番手のタイムを残し、2列目からのスタートとなった。2ヒート制のこのレース、ヒート1ではポジションをひとつ上げて3位、雨でセーフティカースタートとなったヒート2では逆にひとつ落として4位で、レースを終えた。天候に大きな影響を受けたレースでも、しっかりとポジションを維持して見せたのだ。
2戦目となるオートポリスは、予選・決勝ともに日曜日に行われる変則的なスケジュールだった。雨上がりの予選、路面コンディションが徐々に良くなっていくことが予想され、ほとんどのドライバーはセッションが後半になるまでコースインせずに待っていた。そして残り4分で一気にコースインして、1アタックの予選となった。結果として久保は予選を失敗し、21位と下位に沈んでしまった。午後の決勝レースは、オープニングラップで18位、3周目に16位、4周目に14位、そして5周目には12位までポジションを上げた。そして同時に強い雨が降ってきた。6周目10位となった時には、何台かのマシンはコースアウトし、そのマシンを回収するためにセーフティカーが入ったのだが、最終的には7周でレースは打ち切りとなった。21位という絶望的な位置から、10位入賞までマシンを運ぶ強さに、これまでの久保とは違うものを感じた。そして、その1ポイントは、シーズン後半に大きな価値を持つことになる。
九州から北海道へ、3戦目の舞台は十勝スピードウェイだった。シンプルで高低差のないコースレイアウトは、マシンのセットアップが大きく影響する。しかも予選は雨となり、ただでさえ走行機会が少なくデータ不足の十勝では、手さぐりとなった。ただ、そうした時に結果を出せるのが、チーム力である。そして久保は予選、最後のアタックで見事、彼にとって初めてのポールポジションを獲得した。オーバーテイクの難しい十勝で、ポールポジションは価値が高い。午後のヒート1、雨の中の決勝レースではスタートと同時に2位井口を引き離していく。シフトミスによって4周目には並ばれたが、何とか制してトップをキープ。初勝利をポール・トゥ・ウィンで飾ることができた。レース後、井口はこの日の久保について、こう評した。「本当に大人になりましたよね。今日も何度かミスをしていましたけど、以前はひとつのミスからガタガタと崩れてしまっていたんです。それが今日はしっかりと立て直して、ポール・トゥ・ウィンに相応しい走りだったと思います。まぁ、明日また、2人でいいレースができればいいですね」。翌日のヒート2では、井口に先行され、結果として久保は2位となった。ただしファステストラップを含めて、27ポイントを上乗せしたことで、ポイントランキングはトップに立つことになった。
続く岡山大会は、今シーズン最後の2ヒート制であり、大量得点最後のチャンスだった。つまり自分がポイントを多く取れば大きく差を拡げることも可能だが、逆にライバルに先行を許せば逆転される可能性もあった。久保は予選3位からスタートし、ヒート1で2位を獲得、ヒート2でも2位となり、22.5ポイントを獲得した。チャンピオン争いの最大のライバルである谷口信輝は、15ポイントに留まりトータル10.5ポイント差に拡がった。久保は4位以上でチャンピオン、谷口は逆に3位以上に入らないとチャンピオンの可能性がゼロになる。
最終戦ツインリンクもてぎ、予選は大荒れとなった。それは走路外走行と判定されるマシンが多く、予選のトップタイムが抹消されるケースが多かったからだ。久保は11位と、少し苦しい順位で予選を終えたが、上位がトップタイム抹消となったため、9位へと繰り上がった。対する谷口は4位で、このままの順位を維持すれば、自動的に久保がチャンピオンとなる。かなり有利な展開ではあるものの、相手は過去4度のチャンピオンを獲得している谷口であり、久保の表情には緊張感が強く現れていた。決勝レース、久保はオープニングラップで7位へ上がり、さらに7周目には6位へとポジションを上げた。その時点で谷口には優勝するしかチャンピオンの可能性はなくなっていたが、スタートから4位のままポジションを上げることはできずに居た。谷口は久保が6位に上がったのを知ったとき、諦めの感情を持ったという。そして6位フィニッシュ、見事BRZにとって初となるチャンピオンを獲得した。

「SUBARU、チーム、メカニック、そして応援してくれたファンの皆さんに、本当に感謝したいですね。そして、谷口さんと争ってチャンピオンを取れたことは、本当に嬉しいですね」と久保は言う。参戦開始から8年、BRZを使用するようになってから6年、久保はついにチャンピオンを獲得した。今シーズンのニューマシンのパフォーマンスが高かったことも、その一因には違いない。ただ、かつて暴れん坊と呼ばれた久保凜太郎は、チャンピオンに相応しいドライバーへと着実に成長を遂げていたことが、最大の要因に違いない。
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