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2016.06.16

86/BRZ Race、BRZ初勝利への道

手塚祐弥 栃木スバルOTモチュールBRZが雨の富士を制する

TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race第4戦、富士スピードウェイに降りしきる豪雨の中をカーナンバー75のSUBARU BRZが後続車を引き離していく。その姿があらわなのは、鮮やかなWRブルーのボディカラーのせいだけでなく、ウォータースクリーンを巻き上げるはずの前走車が存在しないからだった。早朝には上がると予想されていた雨は、しかしクラブマンシリーズの決勝レースが始まる11時過ぎでも止むことはなかった。それどころか、レース後半になると雨足はさらに強まりコース上にはいくつかの川が出現していた。この状況にメンタルとマシンをピタリとアジャストしたドライバーは安定した走りを展開。トップに躍り出ると、それが当然であるかのようにリードを拡げ、そのまま優勝を遂げた。

レーサーとしては若手ながら豊富なレース経験


ドライバー手塚祐弥は1994年生まれの21歳。10歳のころにレーシングカートを経験し、その後カートレースに本格的に参戦、いくつものタイトルを獲得している。そんな若くして豊富なレース経験を持つ彼の初レースとなったのが、2013年にスタートした86/BRZ Raceの開幕戦だったのである。彼は年齢的に若いとはいえ、その経験値は高く、またレーシングドライバーとして鍛えられたノウハウも身につけていた。パドックでの手塚祐弥は、明るくて快活な好青年である。少しくらい成績が悪くても明るく振る舞えるバイタリティもある。最近見られるようになった、明るいアスリートタイプの若手ドライバーだ。

手塚祐弥、栃木スバル、4年目の挑戦

2016年シーズンも、86/BRZ Raceのエントリーリストに手塚祐弥の名前があった。しかしそれは前年戦ったプロフェッショナルシリーズではなくクラブマンシリーズだった。プロフェッショナルかクラブマンか、シリーズ選択に迷うドライバーも少なくない。日本のトップドライバーに挑むのか?  それとも純粋なワンメイクレースを戦うのか?  前年度プロフェショナルシリーズのうち3レースを戦った手塚祐弥は、最高位15位とそれなりの成績を残している。初年度から栃木スバルのBRZで参戦してきた実力派の若手ドライバーのクラス変更。開幕戦のツインリンクもてぎのパドックで手塚祐弥に質問すると、笑顔を作って煙に巻いてみせた。ただ、その目には「クラブマンに来たからには結果を残す!」というしっかりとした意志を感じた。決勝では、上位のマシンがトラブルでリタイヤし、3位表彰台を獲得した。「オープニングラップでトップに出て、みたいなことを考えてフォーメーションラップでガンバッテタイヤを温めていたんですけど、これは止まらないなと思ったんで、生き残るほうを選んだんです」。その選択が表彰台につながった。彼の冷静さはレースの最中であろうと変わらない。
手塚祐弥のシーズン2戦目は第3戦スポーツランド菅生となった。そのパドックで、初めてこのシリーズでBRZが優勝経験がないことが話題になった。「BRZの初(優勝)、取りたいですね!」。そして、その言葉が決して遠い夢物語ではなく、極めて現実的な目標であることを決勝レースで証明してみせた。オープニングラップで2位に上がった手塚祐弥は、激しく先行車を攻めたてた。明らかにペースに余裕があり、おそらく他のサーキットであればトップを奪えたはずだ。結果、ファステストラップを獲得したものの、2位に留まった。「2位に上がるのは狙い通りで、上手くいきました。でも菅生はコース幅が狭くて車速も高いので抜くのは難しいです。タイヤが最後まで持つのか不安もあったので、セーフティカー中もタイヤを温め過ぎないように気をつけていたんですけど……」。本当なら嬉しいはずの連続表彰台だが、手塚祐弥は笑顔でいたものの決して喜んでいるようには見えなかった。彼の中に膨らんでいた悔しさは、同時に優勝への可能性の大きさでもあった。

そして悲願のBRZ初優勝へ

6月5日梅雨入りしたばかりの富士スピードウェイには、未明から雨が降り注いでいた。天気予報では午前中の早い時間で雨雲は姿を消すはずだったが、しかしスターティンググリッド上に並んだマシンを雨が濡らしていた。2番グリッドの手塚祐弥は、上手くスタートを決めたものの、オープニングラップで3位へと順位を落してしまった。そこには明確な理由があった。「周りのクルマが弱い雨用だったのに対して、ボクは強い雨用のセッティングでした」。その分だけタイヤが本来の性能を発揮するまでに時間がかかり、オーバーテイクを許してしまったのだ。ポジションダウンの理由が判っていた手塚祐弥は、冷静に反撃のチャンスを待った。3周目に1位と2位のマシンが入れ代わると、4周目に手塚祐弥は100Rで2位へとポジションを戻す。そして5周目の300Rでトップに並び、ダンロップコーナーで完全にトップに立った。ヘアピンからの立ち上がり加速が全く別モノだった。その頃、雨は勢いを増し強くなっていた。

300Rにはいつものように川が出来上がり、フル加速していくマシンの挙動を乱していた、ただ1台を除いて。手塚祐弥だけは安定した状態で300Rを直線的に駆け抜けていたのだ。彼が見極めた走行ラインと、予選1アタックしかせずに温存したタイヤが、その走りを可能にしていた。

5周終了時点でタイム差は0秒477。その差を7周目終了時点で2秒287まで拡げ、相手に諦めさせる十分なギャップだった。さらに雨が強くなる中、8周目に自己ベストを記録。最終的に5秒718という大差をつけて、チェッカーフラッグを受けた。

「本当に嬉しいです。ボク自身もそうですけどBRZの初優勝でもあり、全国のスバルファンの皆さん、お待たせしましたという感じですね(笑)。序盤は雨が少し弱まったこともあって、後ろからガンガン来ていたので飲み込まれそうになったんですが、4周目くらいからは雨も強くなってきて、ノリノリでしたね。自信を持って走れました。トップに立って、2位のマシンが離れていったので、最後のほうは余裕もありました」。手塚祐弥は心から喜び、そして安堵していたようだった。組み立てられたレース戦略、それを実現させた栃木スバルのメカニックの技術、そして手塚祐弥の冷静な分析力とドライビングが、初の栄冠を手繰り寄せた。

この勝利によってシリーズポイントでもランキング3位へと上昇、チャンピオンを狙える位置にいる。シーズン後半戦、手塚祐弥の活躍に期待したい。

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