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2016.08.29

帰国した「SUBARU WRX STI NBRチャレンジ2016」は驚くほど無傷

本年5月末にドイツ・ニュルブルクリンクにて行われた24時間レースに出場し、2年連続のSP3Tクラス優勝を遂げた「SUBARU WRX STI NBRチャレンジ2016」が8月上旬に帰国。通関など経て、群馬のSTIワークショップに戻ってきました。未曾有の悪天候や強力なライバルとの激闘を終えてトップチェッカーを受けたマシンを前に、車両開発を担当したSTI車両実験部の坂田元憲、同じくSTI車体技術部の渋谷直樹、山内大生の3名に今年のレースを振り返ってもらいました。
坂田さん、帰国後にもうマシンの修復を済ませたのですか?

坂田 外れかかっていたフロントのアンダーカバーとそれに繋がっているフェンダーなどは正規の位置に戻してリベット止めしましたが、それ以外はまだ一切触れてないんですよ。少なくとも見た目には本当にダメージが少なく、雹が降る中カルロがクラッシュを回避した際にできたスクラッチ(引っかき傷)くらいですかね。
ダメージが少なかったのは、運が良かったんでしょうね。あの天候ですから、あちこちでコースアウトしてガードレールに激突したり、複合クラッシュしたりするクルマが続出していましたよね。

坂田 そうですね。私たちのクルマも終盤はアンダーカバーが路面にタッチするので、少し慎重に走りましたが、他のトラブルやアクシデントは全くなかったですね。でもパワーユニットやサスペンションなどを含め、今回は本当に何も壊しませんでした。長年ニュルに通っているので、壊れそうな箇所の対策はほぼ完全にできているんです。もちろんレースなので、デフやトランスミッション、ドライブシャフトの冷却も抜かりなく対策しています。ですので、このあと続けて24時間走れと言われたら可能だろうと思います。ルマンカーのように極限まで性能を追求した純レーシングカーなら設計段階で「24時間走れればよいクルマ」を作る、とよく聞きますが、私たちは量産技術の延長でレースをやっているので、ロードカーと同じように「24時間後も変わらぬ性能が発揮できるクルマ」を作っていますし、それしか考えたことがありません。なので、トラブルが起きなかったことはある意味当然だと思っています。
坂田さん、設計時に計画した性能は思い通りに発揮できたのでしょうか。

坂田 はい、事前に掲げた「9分を切る」という目標は残念ながら達成できませんでしたが、今回のテーマは慣性モーメントを下げてコーナリング性能を上げることがメインでしたから、それについてはきちんと設計性能が発揮されたと思います。車両規則変更によるエアリストリクターの小径化よってエンジン出力が抑えられ、タイムは伸びない方向のはずですが、予選タイムは昨年とほぼ一緒でした。つまり、出力低下をコーナリングスピードで補ったと言えます。特に中高速のツイスティセクションで速さを稼げましたね。
渋谷 私の専門領域である電気系統も配線の見直しで軽量化に貢献できたと自負しています。配線重量約1割減は大きなチャレンジであり、納得いく成果が出せたと思います。レース中はタイヤ管理も担当していましたが、あのコロコロ変わる天気にファルケンさんもよく対応してくれましたし、ディーラーメカニックの皆さんもテキパキと作業を進めてくれました。クラス優勝という結果は、やっぱりみんなが力を合わせたからなんです。
山内 僕は空力性能を含む、外装全般が担当領域でした。今回はドライバーに中高速域を安心して運転してもらうため、特にリヤのダウンフォース確保と安定した空力性能の維持が期待され、それは果たせたと思います。しかし、終盤にアンダーパネルが外れたことや課題とすべき点もはっきりしましたし、また、リヤウィングの構造に関しても改善点が明確になりました。
坂田 事前に風洞実験もしっかりやっているので、そこで得られたデータが現地でのセッティング変更の参考に役立ちました。長年やっていると、そう言った知見やデータの蓄積が現地で起こる現象の対応に役立つことが多いですね。まさに継続は力なり、というところだと思います。各構成パーツのライフ管理についても、だいぶ整理が進み、交換のサイクルもかなり正確につかめるようになってきました。今後はさらにその精度を上げて効率化を図っていきたいと思います。クルマ全体の状態をいかに把握し、ドライバーがその性能を引き出し易くしておくこと、これが肝心なんだと思います。また、マシンが戻ってきてから富士重工業の実験施設に持ち込み、慣性モーメントの低減が設計値通りとなっているかを計測する実験をしてきました。メーカーの専用ツールを使わせてもらえるのも私たちの強みです。結果は、マシンは設計通りの数値を示し、レース後でもそれらに狂いがなかったことを証明しました。ようやく今年のレースが終わった、という感じがしています。
STIのNBRチャレンジ2016は、様々な試練を経ながらハッピーエンドで幕を閉じました。若手エンジニアの笑顔から、満足度がお分かり頂けると思います。記念撮影をしている間にSTIチームの総監督である辰己英治にも感想を聞いてみました。辰己は、「若いエンジニアがだいぶ育ってきて、良い仕事をしてくれるようになってきました。私たちは自動車メーカーグループの一員なので、自信を持ってクルマをお客様に届けなくてはなりません。レースでもそれは一緒で、いかにレースカーの状態を正確に掴み、自信を持ってドライバーにクルマを渡すことができるかに尽きるでしょう。ドライバーに、開口一番”良いフィーリングだ、バランスがいい”と言わせたら、レースは殆どうまくいくでしょう」と話していました。それを聞いていた坂田達も無言でうなづいていました。

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