NEWS

2017.02.03

新井敏弘 GRCマシンを国内でテスト

1月25日 本庄サーキット(埼玉県)

STIでは、アメリカで人気のあるグローバルラリークロス選手権シリーズにSUBARU WRX STI GRC Supercarで参戦しているSUBARUラリーチームUSA(SRTUSA)への技術支援を今シーズンから本格化します。そのため、1月25日に埼玉県にある本庄サーキットで国内初となるGRCマシンの走行テストを新井敏弘のドライブで行ないました。
今回のテストは、昨シーズン、クリス・アトキンソン(オーストラリア)がドライブしたマシンそのものを持ち込み、今シーズンの目標であるエンジン出力の改善耐久信頼性の向上ローンチコントロールの改善コーナリングスピードを上げるためのジオメトリーの最適化と剛性アップ慣性モーメントの低減を図り「速さ」とドライバーが意のままに操れることを達成するための基礎データ取得を目的としたものです。

新井敏弘「まだまだ、改善の余地があります!」

GRCマシンはどのようなフィーリングなのかを新井は次のように語っています。「ひとことで言えばWRカーに近いフィーリングです。具体的に言うと、ハンドルを切った方向にクルマがどんどん曲がるイメージで、ある意味乗りやすいです。一般ドライバーが乗る量産車では、ここまで曲がりやすいクルマだとスピンしてしまうのでマイルドにセッティングしていますよね。それと大きなところではサスペンションジオメトリーです。量産車ではブレーキング時のノーズダイブを抑えるアンチノーズダイブジオメトリーと加速時にリヤの沈み込みを抑えるアンチスクワットジオメトリーの採用が今や常識ですが、WRカーやGRCマシンではとくにフロントのアンチノーズダイブジオメトリーは採用していません。ブレーキング時にフロントをパタンと縮めてフロントタイヤの荷重を大きくするんです。その方がグラベルでもフロントタイヤがロックしにくくなります。リヤについてはマシンを設計したエンジニアの考え方で異なるようですが」

また、今回テストした昨シーズンのマシンについては、「本庄サーキットのようなコースでも現地のドライバーはサイドブレーキを使って強引に曲げて行くんですよ。ですから現状では、どちらかというとアンダーステア傾向にあります。この辺をもっと普通にブレーキングからアクセルを開けて曲がって行けるようにしたいですね」と力強く語りました。

野村章(STI)「メーカーにしかできないメリットを生かします」

一方、テストを取りまとめるSTIの野村章プロジェクトシニアマネージャーは、「我々が考えていた改善点は、今回、新井選手がドライブした印象と同じだったので間違っていなかったと確信しました」と自信を見せています。「現地のチームは実戦部隊なので、我々のような自動車メーカーが持っている解析システムや実験設備はありません。そこで、メーカーならではのメリットを生かし、例えば最適なサスペンションジオメトリーを導き出し、それをチームにバトンタッチすることが目標です。チームでは、我々が提供したモノをさらにコースに合わせてチューニングするというわけです」と野村は今回のプロジェクトの狙いを語ります。ちなみにGRCのレギュレーションではサスペンションジオメトリーの大幅な変更が許されています。

レギュレーションで電子制御トラクションコントロールは使えない

複数台のマシンが一斉にスタンディングスタートするGRCのレースでは、スタート時のダッシュ力が勝敗を決める要因にもなっています。そこで、ローンチコントロールが必要なのですが、レギュレーション上、車輪速センサー等を使ったトラクションコントロールのような電子制御システムが使えません。STIの野村は「理想的なスタートダッシュを決めるためには、最適なトルク特性を出す必要があります。基本的にはエンジン回転数とブースト圧で制御するのですが、トルクが大き過ぎるとホイールスピンが多くなります。逆にトルクが小さいとストールしてしまいます。ある意味、アナログ的なローンチコントロールなので、実際のコースの路面状況、天候、気温によって異なるタイヤのグリップ力応じて、いくつかのパターンで制御ソフトを用意する必要があるんです。チームはその日の状況に合わせてソフトをチョイスするのです。電子制御が使えないと言うのは、ある意味アメリカンな感じですが、参加する側にとっては優劣が付き易いメリットがあると思います。今日は、いくつかのパターンで現状のデータを取得しました」と語りました。

ドライバーの新井は、「トラクションコントロールなどの電子制御が使えない分、ドライバーの技量が要求されるレースです。スタート時には半クラッチを使いながら微妙なアクセルコントロールも必要です。またタイヤもワンメイクでコントロールされていて、サイズは235/45R17と、これだけパワフルなマシンにしてはプアです。スタート時はもちろん、コーナリング、ブレーキングとドライバーの技量によるところが大きいので面白いですよ」とGRCマシンの魅力を語っています。
現在、STIではGRCマシン用のエンジンを開発しています。今回テストしたマシンは580psですが、新たなエンジンはさらなる性能向上を目標としています。「現在製作中のエンジンは、パワーはもちろんですが扱いやすさも狙っています。レースの特性上、レスポンスにも優れている必要があります。また慣性モーメントの低減のため、エンジン自体の軽量化も進めています。シャシーの方でもさらにマスの集中化を進めて行く予定です」と野村は今後の予定を明かしてくれました。

テストを担当した新井は、「このマシンはまだまだ速くなりますよ。期待していてください」と力強く語りました。現段階では、新井が今シーズンのGRCに参戦するかは決定していませんが、野村らSTIスタッフと育て上げたマシンが活躍する日に期待が集まります。

Scroll to top