目まぐるしく変化する天気に翻弄され、不完全燃焼に終わったSUBARU R&D SPORTチームの2023年SUPER GT開幕戦岡山300kmレースでしたが、事前テストでは安定した速さを見せています。次戦富士450kmレースは、SUBARU BRZ GT300の得意コースのひとつなので、活躍を楽しみにしておきましょう。さて、今回のバックステージコラムは、今年から新形状となったアルミホイールの開発について、BBSジャパン株式会社ブランドマネジメント室の田原裕樹さんにMSM記者がお話を伺いました。(MSM=スバルモータースポーツマガジン編集部)
MSM 新ホイールは見るからに特殊な形状をしていますが、どういう効果を狙ったものなのでしょうか。
田原 開発は一昨年2021年の半ばごろにスタートしました。STIさんとの打ち合わせの中で、ボディサイドを流れる空気の巻き込みを抑え、スムーズに整流するリム形状をトライしてみようということになりました。その後、何度かSTIさんと弊社開発部門がやりとりをしながら、形状を模索してきました。その結果、ご覧のようなリムに縦壁をつけて巻き込もうとする空気を吐き出そうということになりました。かつてルマンプロトタイプ(LMP)用ホイールとして、同様の試みを実施したことがあり、そのノウハウなども活用しています。効果としては、狙っていた空力性能はもちろんのこと、それ以上にホイールの縦剛性が非常に向上することがわかりました。SUBARU BRZ GT300は、一番のコーナリングマシンなので、ブレーキング時、コーナーの進入時、脱出時の踏ん張りを支えていけると思います。
MSM ホイールは型ものなので、簡単にはできないですよね。
田原 はい、そうですね。机上検討の末に、試作品を作り、昨年2022年秋頃から走行テストで使っていただいています。ドライバーの井口さん、山内さんに印象を伺うと、プラスの部分が多いだろうとコメントいただきました。これまでのものと構造がかなり異なるので、乗りづらくなるなどのマイナスもあると想像したのですが、それを差し引いてもSTIさんからはポジティブな回答をいただきました。重量は従来品と変わらないのですが、剛性が高いゆえにコーナリング時にゴツゴツ感があり、横方向の柔軟性に影響があるのでは、と考えたのですが杞憂に終わりました。その危惧も不含めて微調整・チューニングを加え、今シーズンのテストに最終型を間に合わせました。おっしゃる通り開発には時間がかかりますので、なんとか間に合ってほっとしています。少し心配した「しなやかさ」の減少は、冬のテストで少し話題になったのですが、レースシーズンは幸い気温が割に高い時期に集中するので、暖かくなれば吸収できるのではないかと思います。
MSM これまでの開発方針と何か変わったということでしょうか。
田原 山内さんが最多PP記録更新を狙っているように、現在のGT300クラスは以前よりも速くなるペースが早くなっています。ポールタイムがコースレコードを更新することも珍しくありません。そんな中、私たちはアルミホイールをとにかく軽くてバランスの良いものにすべく研究してきましたが、それ以外の点でも貢献できるということが分かってきています。今回のこのホイールの開発がよい勉強になりました。私たち自身も、GT300の進化に追いついていかなければと考えています。
小澤 SUPER GTだけでなく、ニュルブルクリンクやSTI特装車でもBBSさんとはホイールの最適化に取り組んでいます。このホイールもチームの目指す方向にマッチした物を開発していただけました。BBSさんだけでなく、我々のチームではスポンサー/サプライヤーさんも一丸となってSUBARU BRZ GT300のパフォーマンス向上に取り組んでいただいており、非常に助けられており感謝しています。
次戦は、SUBARU BRZ GT300が開発の場として走り込みを続けてきた富士スピードウェイでの450kmレースとなります。高速ストレートおよび中低速のテクニカルなコーナーの多い富士で、このホイールの真価が発揮されることでしょう。5月4日の決勝レースをお楽しみに。