SUPER GT

BACKSTAGE COLUMN

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2025.10.23

細心の注意を払ってレースカーを運んでいます。

SUBARU BRZ R&Dチームトラックドライバー 奧田武能

SUPER GTレースのサインガードエリアでストップウォッチを片手に61号車SUBARU BRZ GT300にサインボードを提示している男性スタッフを見たことがある方も多いと思います。彼の名前は奧田武能さん、実はチームのトラックドライバーです。10月18日(土)、SUPER GT第7戦オートポリスラウンドにて、SUBARU MOTORSPORT MAZGAZINE (MSM)記者が奧田さんに話を伺いました。
MSM 奧田さんのチームでの役割を教えていただけますか。
奧田  「私は運送業者の社員ですが、R&Dチームの専属ドライバーとして、SUPER GT全戦、公式テストおよびタイヤテストやプライベートテストなどの全てに帯同しています。平塚市のR&Dのガレージからトレーラーを預かってトレーラーヘッドを連結し、サーキットまで運んでいます。現場では、ピットの設営を済ませたら、若いメカさんと共にタイヤの準備を行い、レースカーが走行している間はサインボードを出す役をやらせていただいています」
MSM  オートポリスまで陸路自走だと相当時間がかかりますね。
奧田  「はい、厚木インターから東名高速に乗り、牧之原のサービスエリアで止まって休憩をとります。そこで1日分9時間の休息時間をたっぷり取ります。トラックドライバー休息規定というのがあって、4時間走ったら30分休むのを繰り返して目的地を目指すことになります。なので、二日目に牧之原で目を覚ましたら、一気に九州まで走ります。九州まで来たらもう1回1日分9時間の休息を取ることになります。翌日は鳥栖で一旦高速道路を降りて洗車をします。サーキットでは色々な人々に見られるので、トレーラーが入れる広めのガソリンスタンドで、高圧洗浄機を使い洗車します。運転がひとりなので、洗車も一人でやりますよ。走行時間だけを言えば28時間ですが、休憩を間に入れるので火曜日にR&Dを出たら木曜日にオートポリスに入ります」
MSM 宿泊は、高速道路のサービスエリアにある宿泊施設を利用するんですか。
奧田  「いえいえ、車中泊です。私が使っているトレーラーヘッドはスウェーデンのSCANIAというメーカー製なのですが、キャビンに幅90cmのベッドがついていて、快適に睡眠できるんですよ。ホテルSCANIAと呼ばれています。一時期トラックドライバーの過剰労働が社会問題になっていましたが、今は先ほど説明した運行規定をしっかり守っているし、十分休息もとっているので、快適な仕事だと言えます。また、四季折々の風景を少し高い運転台から眺めながら走るのも悪くないですよ。それに甘いものが好きなので、休憩を取るサービスエリアにはそのご当地土産のお菓子とかがあって、それも楽しみのひとつです」
MSM  意外な職業からの転職組だと伺いました。
奧田  「はい、そうなんですよ。東京・恵比寿にあるホテルウェスティン東京でドアマンをやっていました。実は実家が奈良で舗装業を営んでいた関係なのか、小さい頃から走るクルマには興味がありました。高校を卒業する時、トラックにも乗りたかったのですが、ホテル業にも興味があったので東京のホテルマン専門学校に入り、その後ウェスティン東京に入社しました。そこで17年間働きました。ウェスティンはクルマ関係のイベントや発表会などに使われることも多く、SUPER GTの年間表彰式も長年ウェスティンでやっていますよね。そんなことから自動車関係の人とも知り合いになる機会が多く、成り行きで次の仕事はトラックドライバーに行きつきました。高校卒業した時普通免許をとりましたが、その流れで大型免許も取得していたんです。その後今の会社に就職してから牽引免許も取りましたけど」
MSM  この仕事をしていて気をつけていることは何かありますか
奧田  「私はドライバーですが、乗せているものが値段のつけられないものなので、運転には細心の注意を払っています。特に天気が悪い日は強風でトレーラーごと揺れます。霧や強い雨の時も視界が悪いので、そんな時には早めにハザードを出して減速します。そして、サービスエリアに入って状況が良くなるのを待ちますね。万が一横転してしまったりしたら取り返しがつかないことになるので。また、ご覧の通りトレーラーは看板車(全面がデザインされた車両)でもあるので、SUBARUやBRZのイメージを傷つけたらいけないと考えています。だからサーキットに入る前に必ず洗車するのもその一環です。デカールやラッピングの素材を傷づけないよう気を付けながら手洗いしています。ファンの方から声をかけていただくこともあります。2021年にGT300チャンピオンとなった時、全て撤収して富士スピードウェイを出たら隣に並んだクルマの方が、チャンピオンおめでとう、と声をかけてくれたんです。そういう時はやっぱり嬉しいですね。子供さんが沿道で手を振ってくれることもあります」
MSM  サインボードを出すのは大事なお仕事ですよね。
奧田  「今は無線がコースを全域カバーしているので、サインボードの重要性は薄れていると思います。それでも残り周回などを目視確認してもらうことも必要ですし、無線が故障することもある。おろそかにはできない役目だと思っています。プラットホームの壁の高さがコースによって様々なので、なるべくドライバーの目線の先に見えやすい角度で提示しています。ドライバーさんはそれを意識して見てくれているはずですし、チームの一員として責任を感じる瞬間です」
トラックドライバーのお仕事もレーシングチームにはなくてはならない存在です。サーキットの近くで奧田さんが運転するトレーラーを見かけたら、ぜひ手を振ってみて下さい。でも高速道路で横に並ぶことがあったとしても、必要以上に近寄らないようにしてあげてくださいね。レーシングカーを乗せたトレーラーのドライバーは、周囲に相当気を配って運転しているので。
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