SUGOの優勝コメントでは「メカニックのおかげで優勝ができた」と喜びと感謝を表した井口と山内。ドライバーがメカニックと信頼関係を築くのは大事なことだが、一方でクルマの構造を知っておくことは必要なのだろうか。
「クルマをこう触ればこう良くなるという勉強はF3時代にエンジニアとの話の中でしました。最初に乗ったFCJは基本的にクルマをいじることができなかったので、セットアップができませんでした。だからF3に上がってからですね。僕らはF3時代、最初は午後から、その後は毎日朝9時からお昼までチームの工場に行ってクルマのことを触るようになったので。ですからそれより前、FCJもカートも全くクルマのことをいじることはしていませんでした。とにかくライバルよりも速く走りたいという運転する技術への気持ちの方が強かったですね」と10代のころを山内は振り返る。
「僕もカート時代はセッティングとかした記憶がなくて、というか与えられたその状態でとにかく速く走れ、設定されたタイムを超えないといじらないと言われて走っていたので。四輪にステップアップしてフォーミュラ・トヨタ(FT)のレーシングスクールに入って御殿場に引っ越して、校長からクルマの構造とか教わりました。まぁ僕の場合もガレージに行くと自分でFTをバラしていましたから。もちろん最初は訳分からないので、メカニックの方にここをこうやっておいてと言われて教わったとおりに見よう見まねでやっていました。今はもう忘れましたが、当時はギヤの組み方も教わってひとりでFTのギヤを組み上げていました。御殿場に住んでいてガレージも近かったので、乗るためにはやらざるを得なかったというのもあります。正直その時は嫌々やっていました。これ洗っといてとかあれチェックしておいてとか掃除もやってましたし、バイト小僧みたいなことをやらされているような感じで、まだ若かったし尖っていた部分もあったかもしれません。速ければ結果を出せばと思っていたんですが、今こうやってドライバーとして思い返してみると、あの時の経験ってやっぱり生きていますし、クルマのことを知っておいて損はないですし、逆にやっぱりいいことしかないので、あの経験はありがたかったですね。ホントその時は『ギヤとか大切にやれ』って言われているんですけど、分からないですよね。大切にやってるつもりなんですけど、(ギヤボックスを)開けてみれば鉄の粉が出ていたりとか、そんなものを実際に目の前で見ていると、やはり大切にしなきゃいけないんだなって気持ちも芽生えましたし、これがこうなったら壊れるなというのも分かるし。最初はこれが何でこんなに壊れるんだってことをメカさんが生で見せてくれていたので、これはやっちゃダメだっていうのがすごく記憶に残っています。それが18歳で免許取ってすぐぐらいの話ですよね」と井口も若いころの苦労を思い出しながら話した。
「僕は16歳でライセンスを取ったのですが、まだ当時は高校に通っていたので御殿場に来たのは18歳でしたね。F3に上がった年に引っ越して、工場に行ってメカさんに言われたことをやってたんですけど、最初は怒られてばっかりでしたけどね。最初は雑用とかホイール掃除とかクルマ磨きとか、そんなことやってました。そういう経験って若いうちにやっておいた方がいいです」と山内が話すと井口も「間違いないです!」と相づちを入れた。
「それが僕たちの時期を最後になくなったのが不思議でしょうがないんです。僕たちは毎日行ってましたし、名前を書かなかっただけで呼び出しを喰らったりしていましたし。だから今の若いドライバーってメカニズムのことを学ぶチャンスがないですよね。まぁエンジニアの先輩たちは何と言うか分からないですけど、メカニズムを学ぶことは絶対にマイナスにはならないですね」と山内。「僕が通っていた高校は自動車科だったので、普通に卒業して試験を受けていれば三級整備士にはなれたんですけど、試験がドライビングスクールと被っちゃったので資格は取れていません。でもクルマの構造とか分かっていましたし、もっと勉強をしたいなという気持ちはありました。でもやっぱり走るのが大好きでした」と井口は基本的な知識は持っていたようだ。
「スクールの校長には、走ってスタビをこうやるとこうなるか、構造よりもセットアップの仕方を聞くことの方が多かったです。でも構造のことを理解していれば、的確な情報をエンジニアに間違いなく伝えることはできます」と山内は力説する。「それにトラブルが出たときに、ここがこんな状態と言えた方がいいですね。それは構造を分かってないと言えないでしょうし。GTマシン、特にBRZの場合、人の手で作ったというかFIA GT3車両とは違った造りをしているので、初めて乗った時はこれ何ですかあれ何ですかとか聞いちゃいますし、レイアウトもすごく違ったりとかしています。エンジンも小さいのでどこにあるのかとか、このクルマは特に面白いですよね。となるとメカさんとも話が弾むし、それほどメカニズムに精通しているわけではないけれど、ここに何があるかとか理解できます」とメカニズムに詳しければメカニックからも情報が入ると井口。
ではメカニックらとのコミュニケーションはどうしているのだろうか。山内は「メカさんたちには井口選手が声をかけて、年に2回ぐらいはご飯を食べに行ったりします。R&D SPORTでミーティングすることがあるので、そこでいろんな話をするぐらいですかね。それで仲も良くいい関係が保たれていますし、分からないことを教わったりもします」と答える。そういう信頼関係が構築されていたからこそ、SUGOの優勝があったのだろう。
井口が最後に語った。「メカさんさえ正直ガッチリ捕まえていれば! もちろんエンジニアも大事だしチームの雰囲気も全部が大事なんですけど、クルマを触るのはメカさんなので、メカさんに嫌われたらドライバー失格ですよ。『あいつのために何かやってやろう』とか、それ以上のことを僕たちのためにやってくれるんです。だからメカさんが一番大事だし信頼関係はしっかり保っています」。そんな信頼関係を作り出してチームは一丸になっていくのだろう。