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2023.02.02

「ノウハウの蓄積を惜しみなく注いだニューマシン」

東京オートサロン2023のSUBARUブースでもひときわ注目を集めていたマシンのひとつが、SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023だったと言えるでしょう。新型WRX S4をベースに、STIが2008年の初挑戦以来15年間のニュルブルクリンク通いの間に培ってきたノウハウの全てを注ぎ込んだマシン。それが、今年5月18日から21日に開催される第51回ADACニュルブルクリンク24時間レースに出場するSUBARU WRX NBR CHALLENGEマシンです。全く新しいニューカーをベースに新しいNBRレースカーを開発した今回は、STI車体技術部の渋谷直樹が、プロジェクトリーダーとして開発計画全体の管理・推進を担当しました。このコラムでは、3回にわたって新型SUBARU WRX NBR CHALLENGEマシンの開発ストーリーを連載でお届けします。
優れたSGPプラットフォームの利点を最大限活用

このプロジェクトがスタートしたのは、2020年9月のことです。この年の前半に突然始まったコロナ禍によって世の中の多くの事業活動が停滞することとなり、STIも3連覇を狙っていたこの年のニュルブルクリンク24時間レースへの出場を見送っています。人々は会社に出勤することばかりか、街の中をひとりで歩くのも憚れるような暗澹たる空気の中、次期NBRマシンの開発はスタートすることになったのです。それには、長くチームが親しんできたEJ20型ターボエンジン搭載車の生産がこの年の3月に終了し、早晩次期モータースポーツ用エンジンの開発を検討しなくてはならない次期でした。また、一年後の2021年秋にはVB系新型WRX S4が発表されることになっており、これを機にFA24型エンジンのレース用開発と新型シャシーの開発が同時スタートすることになりました。最初に手をつけたのは、新型エンジン、VA型で実績のあるトランスミッション、同リヤデフ、同リヤサブフレームなどの主要コンポーネントの採用を決め、次にいかにこれらのコンポーネントをバランスよく搭載するかのレイアウト検討が行われました。
渋谷は、「実績のある駆動系パーツを新型エンジンと共にレイアウトするのが、最初の難関でした。効率的にエンジン房内をレイアウトするためエンジンの搭載角度を決め、実績のあるカーボンプロペラシャフトに合わせて、リヤデフを配置するのですが、リヤのドライブシャフトを理想的な形で収めるためにはデフの位置を上方に上げるなどの工夫が必要でした。トラクションを路面に伝えるタイヤが接地した状態でドライブシャフトをなるべく路面に対して水平にしておくのが理想だからです。まずはそれらの要素の組み合わせをCAD(設計コンピュータ)の中でレイアウトしていきました」と、語っています。2021年の晩秋には、発売されたばかりのVB型ボディが手に入りました。SUBARUが世界に誇るスバルグローバルプラットフォーム(SGP)は、SUBARU車の「動的質感」を実現するために開発された独自の剛性特性をもつプラットフォームです。
渋谷は、「これをベースに、入力が大きいレース車ではそれに耐えうる補剛・補強を施していくのですが、SGPの利点を最大限に活かしながらもスポイルするようなことがあってはならない。そのためSUBARUの車体設計の方々からアドバイスをいただきながら、作業を進めて行きました。2022年車(VA型)シャシーにVB型のSGP要素を追加し、昨年のニュルに出場したことはすでにお知らせした通りで、その結果、この新型車では、”SGPの良さを最大限活用するため、捻り剛性を上げすぎずに曲げ剛性を高める”チューニングを施しています。もちろん、SUBARU技術本部の協力に加え、辰己英治総監督の長年の経験から得られたアイディアを盛り込んだ新型NBR車の車体は、各部に補剛を入れ、ロールケージが組付けられて行きました。当然可能な限りの軽量化も必要なので、剛性確保と軽量化のバランスを見ながら理想的な車体が完成したと思います」と続けています。
なお、新型シャシーのホイールベースは、2022年車に比べてわずかに短く、フロントトレッドは新型車に準じてワイド化し、リヤトレッドは2022年車とほぼ同じです。リヤサブフレームは、2008年車から引き続き使い続けているスティールパイプ仕様をそのまま使っています。前後重量配分も、ほぼ2022年車と同一にできています。いかに磨き上げたこれまでの技術を踏襲しているか、この関係を見るだけでも伝わってきます。
積極的な若手エンジニアの参加を促し人材育成も同時進行

2022年夏には、SUBARU群馬製作所の一角にあるSTI整備室では塗装が完了したボディに各部コンポーネントや配線、配管などの組み付け作業が開始しています。この作業は、ほとんどがSTI社員による手作業で進められています。渋谷は、「これまでのNBR車開発は、社員の中から経験者が少数精鋭で当たっていましたが、今回からは技術の継承や若手のフレッシュなアイディアを掘り起こすことを目的に、積極的に若手エンジニアを参加させています。新しい技術開発と同じぐらい人材育成は重要だからです。ここで苦労し学んだことを、今後のレース車開発・育成ばかりでなく、ロードカー用のパーツ開発やコンプリートカーの企画などに活かしてもらいたいですから」と語っています。
連日40度近い気温が工房の周りを取り巻く灼熱の真夏の間も、多くの若手技術者が新型車両のボディにとりかかり、9月末に設定していた初試走に向けて組み付け作業を進めていきました。

さらに渋谷は、「実を言うと、この作業にかかる前に部品や部材の手配を進めていたわけですが、その間に昨年のニュルブルクリンクレースがあり、予選レースから24時間レース終了まで、1ヶ月半ほど作業を中断せざるを得なかったのが、辛かったですね。特に結果がリタイヤだったので少し気落ちしていましたから、切羽詰まった新型の開発に意識を戻すのに少しだけ時間がかかりました。しかも、世の中は、コロナに加えてウクライナ紛争の影響が深刻になってきており、電装品の配線やコネクタ、モータースポーツ用部品の一部など新型車用の部品・部材調達が滞っており、果たして間に合うのかたいへん厳しい状態でした。
しかし、そこは長年にわたる協力メーカーさんとの良い関係が築けていたので、彼らの強いプッシュでなんとかかき集めることができました。レースカーの心臓とも言えるECUについては、早い時期に発注を済ませていたので、先に入手できていてよかったです」と話しています。
組み付け作業を進めている最中、チーフエンジニアの宮沢竜太にこのクルマの製作について感想を聞いてみました。すると彼は、「これまでは、いつも時間に追われながら、現場合わせでレースカーを作りあげていく作業だったのですが、このクルマはゼロからいろんな設計者が参加して作っていったので、最初から細かいブラケット類にいたるまでがきちんとCADで設計されています。これまでは私たちが部品の形をまず作り、それを曲げたり穴を開けたりして取り付ける工夫の毎日でしたが、このクルマでは部品が手元に届いた時には板金成形され表面処理までされていて、私たちはそれ取り付けるだけの状態になっています。それは大きな進歩ですね。なので、精度が高いだけでなく、工期が圧倒的に短縮できています」と語っていました。
12月に富士スピードウェイで行われたこのクルマのお披露目プレゼンテーションにて、渋谷は次のように語っています。「このクルマで、2023年4月のNBR予選レースを経て5月18日から21日のNBR 24時間の本番に挑みます。目標は、ベストラップタイム8分51秒を達成し、2L以上2.6Lまでのターボ車が出場できるSP4Tクラスのポールポジションを狙います。決勝レースでは、クラス優勝はもちろんのこと、上位ターボ車クラスのSP8Tクラスをも凌駕するパフォーマンスを発揮するのが目標です。SUBARU/STIファンのため、勝つことでSUBARU車の走りの確かさをお届けするのが参戦目的であり、人材育成や技術開発を推進し、ファンコミュニケーションを強化します」。これだけ明確な目標設定ができているのは、これまで15年間に蓄積してきたノウハウを注ぎ込んだこのニューマシンのパフォーマンスがまさに「見えている」からに違いないでしょう。
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