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2023.02.16

「前後に必要なダウンフォースを配分」

サーキットを走るレースカーにとって不可欠な条件のひとつとして、必要な空力性能をバランスよく利用できるか否か、が挙げられます。強大なパワーをAWD機構によって四輪に適切に配分できたとしても、そのエネルギーを前進方向に向かうトラクションとして路面に伝えなければなりません。つまり、走る車体に受ける空気の圧力を利用し、地面に押しつける力であるダウンフォース(マイナスリフフト)を獲得することが重要です。しかし、空気の圧力は時に抵抗や浮力となることも多く、適切な場面で適切な空力効果を得たいものです。そのため、エンジニアたちは見えない空気の流れや量を読み、効果的・効率的に利用するため、知恵を絞ります。
エンジン出力増加に見合うコーナリングスピードを得る

STI NBR CHALLENGEプロジェクトをリードするSTI車体技術部の渋谷直樹は、SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023車両の空力開発について次のように表現しています。「新型NBRレース車は、FA24型エンジンの採用による旧型との排気量400ccの差、増加パワーに見合うコーナリングスピードを味方につけ、コーナーで速く安定した挙動のクルマに仕上げることが求められます。そのためには、オーバーハング部にあるスポイラーやカナード、リヤウィングなどに効果的に空気の流れをあて、クルマを持ち上げようとするリフト(CL)を抑え、マイナス方向の力に変換する必要があります。ところが、そういった空力的付加物(デバイス)に頼る前に、他の方法でリフトを減らすことを徹底的に追求しておかなければなりません。
特にフロント部分は、走行中の空気を直接受けるので、ラジエターやインタークーラーを冷却した空気を効率的に後方に抜いてやらなければ、エンジン房内の空気密度が上がり、リフト方向に作用してしまいます。しかも歴代のWRXはラジエターとインタークーラーが別系統となっているので、2箇所からエンジン房内に送り込んだ空気を効率良く抜く必要があります。また、ブレーキを冷却するためにフロントバンパーから取り込む空気も、なるべく効率的に抜く工夫が必要です。その部分は、2022年車両で効果が確認できているフェンダー上のルーバーを採用しています」。
現代のレースカーの空力開発は、CFD解析(流体力学解析)技術を活用し、コンピーター上で車体に受ける空気の流れをシミュレーションし、フェンダーやスポイラー類のシェイプを形作っていきます。このSUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023では、ベースとなるVB型WRX S4の空力特性を知り尽くしたSUBARU量産車のデザイナーや空力専門技術者の協力を仰ぎ、CFDによる検討もスムーズに進行しています。
渋谷プロジェクトマネージャーは、「VB型は、VA型に比べてAピラーの傾斜角が寝ており、CD値(空気抵抗)の点では有利です。さらに、フロントフェンダー形状や2022年車で実績のあるスワンネック式リヤウィングが効果的であることはわかっていました。まずはCFDを使って導風の検討を始めました。CAD(コンピューター)上で設計した外装パーツを組み付けたのち、2022年10月にはSUBARU群馬製作所内にある風洞設備で実車試験を実施しています。そこで、目標性能が実車で発揮できているかを確認しました。その結果からフロントのダウンフォースが想定よりやや不足していることがわかりました。また、その後富士スピードウェイで行った開発テストでは、ドライバーからも同様のコメントがあり、対策が必要となりました。風洞試験も以前のモデルから幾度となく繰り返していますが、データを蓄積していくたびに実車と解析の相関が取れて精度が上がり、数値とドライバーのフィーリングとがマッチしてくるものです。
12月末に行った2回目の風洞試験では、対策としてラジエターからフェンダー内に流れる空気をカットし、車体下の流速をあげて冷却効果を上げると同時にダウンフォースを稼ぐチューニングを行い、さらにリヤディフューザー内にバーチカルフィン(前後方向の仕切り板)を新設することで、リヤのダウンフォースも増加しています。また、フロントのエンジンフード後端上面にガーニーフラップをつけてみると、これもフロントダウンフォース確保に効果的であることがわかりました。CFD解析、風洞試験を経て実車テストをすることでわかることも多く、これらはどれも省くことができない作業だということを証明しています。また、今回新しくリヤのトランクフードに設けたリヤデフ冷却口を塞ぐと、リヤウィング下の空気が乱れずに流せるので、これまたリヤのトラクション確保に効果があるのがわかりました。風洞でその傾向が見つかったので実車テストしてみると、富士スピードウェイのストレート最高速が約10km/hも伸びています。デフの冷却は別の方法を考えなければなりませんが」と語っています。
STIで長く外装部品の設計に関わってきた山内大生が、最初の開発テストの際に「今回の新車は、これまでと違いSTIの若手技術者の多くが設計に関わり、またSUBARUの技術者の協力も得られたので、短期間でかなり精度の高い外装部品の開発ができました。そのため、軽量化や空力性能だけでなく、サーキット現場でのサービス性も考慮したもの作りができています。例えばフロントノーズアッセンブリのクイック着脱機能がそれですし、ドアのカーボン製内張ひとつにしても最初からドアハンドルなど必要な機能が作り込めているので、走らせながら部品を追加していく必要はありません。また、ドライバーの快適性を考えて導風をレイアウトしているのもこれまでの蓄積技術の活用です。フロントグリルも冷寒時用、ドライビングランプを組み込んだ夜間用など3種類がシェイクダウン時に用意できました」、と笑顔で話していたのが印象的でした。
外観の印象を形成する全体のデザインについて、SUBARUデザイン部の河内敦は、「今回はSUBARUの若手デザイナーが外観デザインとリバリーデザインに積極的に関与しています。量産車のWRX S4とのイメージ乖離があってはならないので、特に特徴的なオーバーフェンダーとフェンダーモールまわりの処理を強調しています」、と話しています。
SUBARU研究開発施設を活用

シャシーの構成要素が組み込まれ、外装部品の架装が完了したのち、SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023は、栃木県佐野市のSUBARU研究実験センターに持ち込まれ、車両の運動性能のベース計測を行います。重心高計測とヨー/ピッチ/ロール慣性の計測は、車両を大きなテーブル(天秤)に乗せ、シーソーのように天秤が釣り合った位置で錘をのせ、その角度を計測して重心高を算出し、軽くゆすり、その揺らぎの周期から慣性を算出します。これにより、新型レースカーの素性が設計通りかが確認され、今後のチューニングのための基礎データを得ることができました。このようにSUBARUの設備や機器をレースカー開発に活用できるのは、STIならではということが言えるでしょう。
渋谷プロジェクトマネージャーは、「元々私は、エレクトロニクスが専門分野で、エンジン、駆動系や車体各部に設置した各種センサーからのデータを解析してエンジンや駆動系など車体全体の制御が狙い通りに働くようにするのも私の守備範囲です。それに加えてプロジェクト全体の管理ですから、結構仕事は多岐にわたります。その範囲で言うと、このクルマからはさらに四輪のトルクを計測するためのトルクセンサーが付けられるようになっています。これによってきちんとトルクが四輪に伝達されているか、駆動配分が適正か、コーナリング中はどのような配分になっているか、を測ることができます」、と付け加えました。SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023は、多くの技術者の手により、最新テクノロジーとSTIが蓄積してきたノウハウが詰め込まれているのです。
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