NURBURGRING 24H RACE

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2023.03.10

「24時間3,800kmを走り切るために」

STIがSUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023用に選択したパワーユニットは、FA24型2.4L水平対向DOHC直噴ターボです。WRX S4やレヴォーグに搭載されているFA24型エンジンは、標準で最高出力275PSを発生するユニットですが、NBR 24時間レースに適応するため、大型ターボチャージャー、強化したピストンやコンロッド、専用インタークーラーや同エキゾーストマニホールドなどを採用し、レギュレーションによるφ39エアリストリクター(吸気制限装置)を装着しながらも380PSまでの高出力化を実現しています。
パワーアップと直噴エンジンの利点を最大活用

STI NBR CHALLENGEプログラムをリードするプロジェクトリーダーの渋谷直樹は、新エンジンについて次のように語っています。「2020年にこのプロジェクトがスタートする際に、ニューカーに搭載するエンジンはFA24型とすることが決まりました。長く活用してきたEJ20型の後継機種なので、大事に育成する必要があり、時間をかけて開発してきました。このエンジンは、EJ20エンジンに対する400ccの容量アップと直噴化が最も大きな違いです。現状では、EJ20の約340PSに対して380PSまで出力アップすることができます。さらに、シリンダー内に燃料を直噴することで、緻密な燃焼制御ができ、出力を最適コントロールすることができます。また、燃費コントロールにも有効で、効率的な運用が可能です。これらは、直噴システム専用のECUで制御しています」
試験用の試作エンジンは、2021年春からベンチテストにかけられ、様々な耐久モードで連続運転試験が行われ、2022年秋のニューカーシェイクダウンに合わせて車載状態でのテストが開始されました。主担当としてこのエンジンの開発に携わったのは、STIパワーユニット技術部の菊地渉です。2021年入社の菊地は、入社早々にこのNBR用FA24型ユニットの開発を担当することになりました。前述のような専用部品への置換以外には、もともと高回転・高出力に対応するよう設計されているこのエンジンのブロックやシリンダーヘッドは、特別な補強をいれる必要はなかったと言います。
「ニュルブルクリンク24時間レースは耐久レースなので、エンジンの信頼性というものは必ず確保しなければなりません。勝利するため、完走するためには、まずエンジンの信頼性が確保されていることが前提です。それを一番に考えて開発を進めてきましたが、実際のレースでそれを実証できるように引き続き準備を進めてまいります。EJ20という実績のあるエンジンから学ぶところが非常に多く、それらをしっかり勉強してFA24にフィードバックしていくことが重要だと思っています」
新エンジン最初の試金石はいきなりNLSレース

2022年秋に始まった富士スピードウェイを中心とした開発テストでは、新型FA24エンジンは原則として大きなトラブルなく回り続けたと言えます。それでも周辺の小さなトラブルは皆無ではありませんでした。まずは、富士スピードウェイの第1コーナーやBコーナー進入など、強大な制動力によってオイルパン内の潤滑油が偏り、油圧低下を招くというトラブルがありました。世界有数の急減速コーナーがある富士スピードウェイ特有の現象かもしれませんが、このFA24エンジンはカム駆動がチェーン式となり、急減速によって前側に偏った潤滑油がチェーンに絡んでオイルパンに還流しないため、油圧低下のワーニングを発してしまう問題です。年明けのテストでこれが発生し、次のテストに向けてSUBARU技術本部のご協力を得てオイルの流体解析を行いオイルパン内にバッフルプレート(偏り防止の隔壁)を設ける必要がありました。また、国内最後の開発テストでは、突然インタークーラーの溶接部分にピンホール(小さな穴)が空き、エア漏れがおきました。
これは、溶接不良によっておきたトラブルですが、ニュルの地で決勝レース中に発生してはいけないので関連部分の再チェックを行いました。また、エキゾーストパイプのフレキシブルジョイントから排気漏れもありました。開発段階における頻繁なエンジン脱着によりフレキシブルジョイントが傷んだ可能性が考えられます。前出の菊地は、「こういった補機類のマイナートラブルは開発段階では起きやすいので、可能な限り早く対策をしています。そして、4月のNLSレースや翌週のQFレースでの想定走行距離にマージンを加えてエンジンの耐久性を確認する予定です。心配事といえば、エンジンの劣化による影響がまだ見られていないことです。これまでのエンジンだと、距離を走るとブローバイのオイル量が増えたりオイル消費量が増えたりする傾向にあります。レース途中で追加するオイルの加減が見られていないこと、レース中の油面管理は心配事のひとつですね。また、現地燃料との適合も未知なので、早めに現地入りして成分をチェックし適合を進めて入念に準備します。現状ではQFレースを終え、24時間レースウィーク前にフレッシュエンジンに交換し、更に万全を期す予定です」、と語っています。
渋谷プロジェクトリーダーは、「排気音量関連では、これまで富士では基準値内の排気音量だったものが、ニュルではコース上の複数個所で音量計測をしていて排気音量オーバーの指摘を受けることがあったため、数種類のエキゾーストパイプの試験を行っています。また、燃料直噴式となったことで、ポート噴射式と比べると燃料噴射の制御がより緻密にできるようになり、アフターファイヤーも減るので、排気音量的には有利です。更にばらつきも考慮してテストしています。音量を絞れば排気管ユニットのサイズが大きくなり重量が嵩み、更に通気抵抗も増えるので、バランスを見ながら最終仕様を決めました。また、NBRフルコースで走らせてデータ検証する必要がありますが、排気量と出力が増えたことで、現状では燃費的にはやや厳しい見込みです。
それをカバーしながら1スティントのラップ数と安定的に速いタイムで走れるバランスを見つけていきます。なお、SP4Tクラスで吸気リストリクターφ39となっているのは、車両最低重量1,220kgを選んでいるからで、これによってタイヤ幅も規定されています。なお、過給圧制限については、主催者から提供される圧力センサーがインテイクマニホールドに装着されており、車内通信システム(CAN)によって集められる他のエンジンデータと共に主催者にモニターされます。これはレギュレーションで規定されており、レース中に何度かデータが格納されたSDカードの提出が求められます。これらのテクノロジーによって、各チームとも厳正な制限が求められていますが、これらによってルール運用の公平性が保証されていることになります」、と結んでいます。
ドイツに向けて3月中旬にレースカー本体は出荷されます。その後、STIの先発隊が4月上旬に渡独し、同第3週に予定されているニュルブルクリンク長距離シリーズ(NLS)レースに出場し、初めてSUBARU WRX NBR CHALLENGE 2023がニュルのフルコースを走る予定となっています。
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