SUPER GT

BACKSTAGE COLUMN

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2020.08.18

「現場に戻ってきました」

古くからのSUBARUファンでなくとも、小澤正弘の名前は聞き覚えのある方も多いことでしょう。かつてWRC(FIA世界ラリー選手権)にSUBARUがワークス参戦していた頃のエンジン担当エンジニアであり、WRCプログラム終了後はSUPER GTへの本格参戦、ニュルブルクリンク24時間プロジェクトにも深く関わり、ニュルでは2013年から現場を仕切るチーム監督を務めた人物です。その小澤が本年からSTIに職場復帰し、同時に再びSUPER GTプロジェクトに関わることになったのです。
小澤は、かつて国産車メーカーのエンジン開発部門に属し、「モータースポーツに関連する仕事がしたくてSUBARUの門を叩きました」と語っています。念願かなってSTIのパワーユニット担当となってからは、WRCの現場対応エンジニアとしてSUBARUワールドラリーチームに帯同、世界各国を回って様々なラリーを戦った経験をもっています。「時は、ペター・ソルベルグとトミ・マキネンのふたりがSUBARUに乗ってくれていた時代でした。トミの引退後は、クリス・アトキンソンとも一緒にWRCを戦いました。思い出深いのは、レギュレーションの変更によってEJ20エンジンの競争力が厳しくなった2006年以降、エンジンの性能開発を担当することになったことでしょうか。インテイクマニホールドやエキゾーストをはじめ、様々な部分に改良を加え、レギュレーション変更で失ったパフォーマンスを押し戻すことに専念しました。当時はチームオペレーションを担当していた英国のプロドライブとSTIでエンジン開発を競い合っていたんですが、解析などの技術に勝る日本側がやはり優勢だったので、思う存分アイディアを注ぎ込みましたね」と小澤は話しています。
モータースポーツ先進国としての誇り高き英国人を納得させ、エンジン開発のリーダーシップを振るった小澤の名は、WRC関係者の間で知れ渡ることとなりました。2008年でSUBARUのWRCプログラムは終了となり、STIはR&Dスポーツと力を合わせてレガシィB4 GT300を作り、その後2012年にはBRZ GT300をデビューさせることになります。この時期、小澤はエンジン担当エンジニアの立場で関わっています。現場のSUPER GT担当者のサポート役として、多くのイベントにも参加しています。また、SUBARUオブアメリカのグローバルラリークロス(GRC)プログラムにも関わり、多忙な日々を過ごしていました。しかし、チーム監督として手腕を振るった2015年のニュブルクリンク24時間でSUBARU WRX STIがSP3Tクラス優勝を勝ち取った直後、小澤は家庭の事情でSTIを離職することになります。突然発覚した家族の病気治療をサポートするため、休日出勤や出張の多い職種が続けられなくなったためでした。それでも国土交通省管轄の政府機関である交通安全環境研究所に2年半所属し、さらにその後AVLジャパン(オーストリアに本拠地を置く国際的なエンジン開発の最先端企業)に勤めて力を発揮することができたのは、彼のWRCでの経験と「攻めるエンジニア」としての気質が買われてのことに違いないでしょう。2019年に家庭の事情が一段落した時、タイミングよくSTIの渋谷真総監督から「戻ってこないか」と声がかかったとのことです。
「もともと(短期間で開発の結果が問われる)モータースポーツが好きでこの世界に入ってきているので、また現場に戻れるチャンスにはすぐに反応しました」と、SUPER GTの現場に復帰することになったきっかけを小澤は話してくれました。「5年間のブランクの間にも、幸いなことにエンジン開発の最先端技術に触れていたので、技術的に遅れをとった感覚は全くありませんでした。長いこと付き合っているEJ20エンジンは、30年以上も前に誕生したパワーユニットですが、近年発生したトラブルを起こさないように信頼性を上げることが先決ですね。モータースポーツは不測の事態が起きるものではありますが、ひとつひとつ地道にトラブルの発生原因をつぶしていくしかないですね。それでも、まだできることはたくさん残されていると思います。モータースポーツから離れている間にもSUBARUファンの熱心さは、見聞きしていました。今は、SUBARUファンの皆さんの思いに応えるような仕事をしなければ、と強く思っています」と笑顔を見せました。
小澤正弘の「攻めるエンジニア」としての今後の成果に期待したいと思います。
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