SUPER GTの舞台裏を少しだけご紹介するこのバックステージコラムも、今季6回目となりました。今回は、2年ぶりの開催となったオートポリス戦では、BRZ GT300はマックスのサクセスウェイト100kgを搭載することになっており、ブレーキにかかる負担は相当なものなのではないかと疑問に思ったSUBARU MOTORSPORT MAGAZINE(MSM)編集部のライターが、R&Dスポーツのチームメカニックである宍戸克之に話を聞きました。
まず、土曜日の朝、フリープラクティス前にピットを覗くと、BRZのフロントブレーキダクトはガムテープで左右とも塞がれています。アップダウンの厳しいオートポリスでは、ブレーキへの負荷も高そうです。また、文字通りジェットコースターのように急な下り坂をくだった後、右に左にツイスティな上り坂を駆け上がる後半セクションのブレーキが悲鳴を上げないか心配です。
MSM 宍戸さん、100kgのサクセスウェイトを積んでいる今回、このコースでブレーキダクトを塞いでいるのはなぜですか。オーバーヒートしないのでしょうか。
宍戸 「レースカーは、オーバーホールしたマシンを初めて転がす際には、ブレーキローター、パッド共に適正温度で焼きを入れておかないとならないんです。なので、まずはダクトを塞いでスタートし、温度のデータを見ながらその後どうするかを決めていきます」
MSM 適正温度とは、何℃くらいなのでしょうか。
宍戸 「ブレーキローターはスティール製なので、適正温度の範囲の中で運用しないと、パフォーマンスが発揮できないばかりか、温度差が大きいとローターにクラック(ひび割れ)ができてしまいます。ローターのベンチレーション面に到達温度によって色が変化するサーモペイントを塗ってあり、そこで走行中何℃まで上昇したかをチェックするようにしています。我々のチームは、2種類のブレーキローターを運用しており、今回は容量の大きいヘビータイプを使っています。コースによって使い分けており、通常の場合ヘビータイプを使うのは富士、もてぎ位で他のコースではライトタイプを使います。どのように違うかと言うと、ローターの当たり面が広いものがヘビータイプです。重量がライトタイプに比べて一輪あたり1kg以上重いので、ハンドリング性能に関わるバネ下重量的にはもちろんライトタイプの方が良いのですが、制動力では幅広のパッドが使えるヘビータイプのほうが優っています。クルマが軽ければ、ハンドリング勝負ができるオートポリスはライトタイプで行きたいのですが、今回は100kgを乗せているのでヘビータイプを使っています。適正温度は上限800℃で、下限も500℃程度となっています」。
MSM サクセスウェイトを積み、アップダウンが多いコースといえば前回のSUGOもヘビータイプで対応したのでしょうか。
宍戸 「SUGOは見た目的にブレーキに厳しいコースに見えるかもしれませんが、実はそうでもなく、上りのストレートエンド以外は中速コーナーが多かったりして、通常はライトタイプで十分なコースです。しかし、前回は終わってみると、パッドがギリギリでした。なので、今回は容量を重視してヘビータイプにしました」。
MSM 予選前にもダクトを見ましたが、まだ塞がれていましたよね。
宍戸 「温度の範囲が適正であればいいんですよ。この様子だと明日のレースも大部分を塞いで走るようになると思います」。
しかし、低速走行するFCYやSCが入れば相当ブレーキは冷えてしまうかもしれないし、逆にストレートで整列を待つ間にブレーキキャリパー周辺の温度が上がってフルードがベーパーロックしてしまうことは無いのだろうか。そんな疑問を持って、エレクトロニクス担当のSTI渋谷直樹さんに尋ねてみました。すると、「ハブ側に非接触式の測温センサーをつけており、常にローターの表面温度をデータロガーで確認しています。また、土曜日のフリー走行の間にシミュレーションした結果、ブレーキの温度管理的には適正の範囲内だと言うことがわかっています」。なんと、ここでもセンサーが活躍していました。
オートポリスがホームコースであるドライバーの井口卓人にも聞いてみました。「まあ今回は、ヘビータイプの方が安心ですね。特にこのコースは路面が荒れている箇所があちこちにあって、第1コーナーとか第2ヘアピン(登りの頂上にある)が一番ブレーキを強く踏む箇所なのですが、そこでクルマがうねりながら減速していきます。そのへんのコントロール性は大きくて容量に余裕がある方が扱いやすいですね。ライトタイプの方が運動性能的には有利で、慣性の違いは歴然としています。しかし、今回は車重が重いので性能が安定するヘビータイプのほうが安心です」。
これらの性能の異なるブレーキを使い分けることができ、100kg重くてもコースレコードの更新ができるBRZ GT300はバランスに優れていると言えるでしょう。レースでも常に上位を走り、迫ってくる車重の軽いマシンを寄せ付けなかったことでもそれを証明していると思います。