SUPER GT

BACKSTAGE COLUMN

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2022.08.11

「EJ20エンジンを丁寧に組み上げる」

サーキットでの華やかなモータースポーツ活動の裏には、多くの「裏方」が働いています。いまやSUPER GTレース出場車両中最小排気量の4気筒エンジンとなったスバルEJ20型水平対向ターボエンジンですが、サーキットには姿を見せず、日々ファクトリーの一室でレース用EJ20エンジンのオーバーホール、組立を黙々と進めているグループがあります。今回のバックステージコラムは、東京・三鷹のSTIパワーユニット技術部チューニング課を訪れ、担当の鈴木晋、中島直人の二人に話を聞きました。(以下MSM=SUBARUモータースポーツマガジン編集部記者)
MSM 鈴木さん、EJ20の組み立ては何年やっているのでしょうか
鈴木 「1990年にWRCデビューしたレガシィからですが、正確には1989年から関わっていますので、今年で33年になります。それ以来、WRCのほかにも全日本ラリー、全日本ダートトライアルから全日本GT選手権(のちのSUPER GT)、スーパー耐久など、EJ20が活躍した全てのカテゴリーに関係しています。レガシィの最高速チャレンジ、NBR現地サポート、SUBARUラリーチームジャパンのチーフメカも担当しました。富士重工(のちのSUBARU)に1983年に入社し、1988年にSTIができた時に所属していたスバル試作課に応援依頼がきて、それ以来ずっとですね。当初はお手伝いでしたが、その後1993年にSTIに出向という形となり、2008年に転籍しました」
MSM SUPER GTレース用エンジンの組立工程を説明してもらえますか
鈴木 「まずは、納入された部品の準備から始めます。エンジンブロックなどはバリ取り、ASSY部品を組み合わせたり、クランク、ヘッドなども加工を施します。オイルポンプにしろ、ベルトカバーにしろ、細かなブラケット類も全てです。mg単位の重量合わせなど、部品の選別もその工程に入ります。部品点数は約200点あり、それらの準備が全て揃ってから組立に入ります。まずは、ブロックの擦り合わせののち、ピストンを入れ、それからオイルパン回り、シリンダーヘッドをつけて、カムシャフト、動弁系を入れ、ベルト回りを取り付けたら、手作業でカムタイミングを調整、ベルトカバーを装着すると、ほぼ下回りは完成です。その後、インテークマニホールドをつけて作業完了です。その後はタービンと考えるでしょうが、ターボは別手配でチームに送り出され、車載時に取り付けることになります。ですから、ターボのない状態でベンチ室(エンジンベンチ=ダイナモメーター)に送り出し、実験チームがベンチ用ターボを取り付けて慣らし運転をするという段取りになります。私たちの手を離れるまでの工程で、部品の準備から約110時間かかっています。約2週間半ですね」
MSM では、レースで使用したエンジンのオーバーホール工程にはどんな作業が含まれるのでしょうか
鈴木 「エンジンを分解し、まずは洗浄前に各部の点検を行います。細かい部分を画像に収める記録撮影という工程もあります。焼け具合など色合い変化や外傷がないかを調べます。単純な作業ですが、データを積み重ねると見えてくるものもあります。なので記録は結構大事な工程だと思います。それからやっと洗浄作業となります。ひと通りカーボンやスラッジなどの汚れを除いていくと、また見えてくるものがあるんです。こまかな傷がついていたり、ヘアラインのようなクラックが発見されることも稀にはあります。その後、摩耗したりして使えないもの、再利用が可能なものを選別し、設計部署と交換部品の相談をします。ライフ管理です。その後は、メタル類の選別、異物侵入を防ぐシーリングなど貼り替え、オイルシールの取り替え作業を行います。ラバー部品はほぼ取り替えですね。サイズ合わせ、重量合わせは結構手間のかかる作業で、例えば4気筒分のバルブ類はサイズ・重量ともに均一するものを選び、さらに細かい均一化は外注に出して精度を高めます。ピストンの圧縮比は4つを完全に均一に加工するので、誤差・バラツキは0です。バルブやピストンは比較的交換頻度が高く、ライフ管理も正確さが要求されます。ここから先は、新品の組立工程と同じです。最終の組立工程は三日ほどで完了し、ベンチ室に送られてからは回転ごとの慣らし、SUBARU用語で”領収”運転を行い、一定のパフォーマンス指標にマッチしていることが確認されれば出荷準備となり、ここへ戻ってきます。その後オイルフィルターを交換し、いつくか細かいショートパーツを差し替えて最終確認工程に回し、ようやく出荷となります」
MSM 慣らし運転を経て、差し戻しということもあるのでしょうか
中島 「稀にはオイルが滲んでいるとか、油圧が上がり切らないなどの指摘があって、ベンチから降ろして差し戻しを受けたり、場合によってはベンチ上で修復作業することもありますが、要はベンチも完全に設計通りに作動するかの確認工程なので、いくつかのチェックポイントのひとつとしてトラブルを未然に防ぐ役割を果たしています。私は、1991年入社後もともと量産車のスペアエンジンを組み立てるリビルトサービス課で働いており、その経験からサービス課を経て、1993年のサファリラリーには行かせてもらいました。その後は、もっぱら国内ラリーやダートラを担当してきました。2018年からはこちらに異動となっています。お客さまのエンジンもレース用エンジンも心を込めて組み立てるという作業は全く一緒だと考えています」
MSM お客さまにお伝えしたいメッセージがあればお願いします
鈴木 「はい、私の社会人人生の大部分と言って良いEJ20エンジンを今後も応援していただければ、と思います。私たちもチームやドライバーの皆さんの頑張りや、ファンの皆様の応援に応えられるよう、壊れず高いパフォーマンスが発揮できるエンジンを丁寧に作り続けたいと思います」
MSM 鈴木さん、中島さん、今日はどうもありがとうございました。
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