SUPER GT

BACKSTAGE COLUMN

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2022.09.28

パフォーマンスが落ちないタイヤの秘密

SUBARU BRZ GT300の2022年の夏用タイヤがとても良いと聞き、SUPER GT第5戦鈴鹿戦のパドックにて、住友ゴム工業モータースポーツ部の堀田篤司エンジニアに話を聞きました。
まずは、同社モータースポーツ部の竹内二郎部長から、2022年1月よりSUBARU担当となった堀田エンジニアのご紹介を受けました。「堀田は、2021年まで住友ゴム名古屋工場で、レースタイヤの生産技術を担当していました。実際に製品を製造する工程ではなく、製造するタイヤの仕様を考えるのが仕事です。レース現場でチームから集まる情報をもとに、担当者がそれをまとめて生産技術にオーダーを出し、それに従ってタイヤの仕様を決めていくことになります。製造する技術を知り尽くしている彼に、今度は逆の立場でオーダーをまとめる仕事をやってもらおうということで、人事異動を命じました」。
その堀田さんに次の質問を投げかけて見ました。「今年の夏の(第4戦)富士では、SUBARU BRZ GT300は車重が重いにも関わらず、驚くほど速いペースで走り、終盤になってもパフォーマンスが落ちなかったと思うのですが、その秘訣は一体何だったのでしょうか」。堀田さんは、少し照れくさそうに、それでいて一言を噛み締めるように話し始めました。
「レース用タイヤは、確かにロングスティントを走ると性能が徐々に落ちていくことになります。なので、私たちは車両の特性を考え、状況によって、フロントから、あるいはリアが先にパフォーマンスダウンするなど傾向をきちんと捉え、そこをしっかりサポートしなければなりません。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、課題に対してちゃんとタイヤマネジメントができるようにタイヤを変えていこうということになったわけです。それを踏まえて開発したタイヤを7月の富士テストで投入したところ、ドライバーの評価も良かったので、8月の富士で実戦使用し、あのような結果を残すことができました。それまであったリアの不安定さに対してしっかりスタビリティを上げるため、配合が同じであっても粘れるタイヤにしました。簡単に言えば、フロントは転舵に対して素直であり、リアはあくまでもどっしりと安定する形にすべきということになったのです。ドライバーが長く安定して走れるように、話し合ってチーム側もタイヤ側も同じように調整した結果です。また、仕上がったタイヤの使い方も、チームに最適と思われる走り方を提案するなど、納入した後も対話しながら開発を進めています」。
もう少し噛み砕いて説明してもらいましょう。「素材の配合も構造もある程度目星をつけ、全く新しい考えを入れて作ったのが良い評価をいただいたタイヤです。実は、形状、つまりプロファイルも変えているんですよ。遠くからレースカーに装着された状態ではわからないと思いますが、同じように黒くて丸い化学合成ラバーなのですが、車両から外して近くで比較すると形状が異なるのはご理解いただけると思います。なるべく接地面を稼ぐ形状にしています。金型から作り直す必要があり、接地面が増えることで入力が変わるので車両側のセッティングも変更していただくことになるのですが、チームと話し合って思い切って大きな変更を入れたのがあのタイヤなのです。真夏のレースになるべくパフォーマンスを落とさず、勝負ができるように挑戦したことが功を奏しました」と堀田さんは続けました。なるほど、住友ゴム(ダンロップ)としても大胆な改修だったようです。
「今年のSUBARU BRZ GT300は、これまで以上に重い状態で夏までに今までにない車重になっています。だからと言って、対応できない範囲でもないので、走らせながら少しずつセットアップ変更を重ね、タイヤの良いところが引き出せるようにはなっていると思います」。小澤総監督も、「重いなりにセッティングを合わせ込めば、パフォーマンスが発揮できる範囲内である」ということをよく口にしていますね。
堀田さんの個人的バックグラウンドも尋ねてみました。「私は、機械工学系大学院を卒業した2019年4月に入社し、新人研修ののち名古屋工場に勤務することになりました。ですから、今年でまだ社会人4年目なのです。それでも入社してすぐに、SUPER GTだけでなく、全日本ラリー用も開発に関わらせていただきました。北海道出身で小さい時からクルマ好きで、F-1もよく見ていました。母親の足車がスポーツカーだったこともあり、影響されたんでしょうか。大学でも自動車部所属だったし、プライベートではインプレッサに乗っています。研修の際に名古屋工場でレースタイヤを作っているところを見ていたので、ダメ元でモータースポーツタイヤ担当のグループに配属希望を出しました。役に立てている実感は、とてもやり甲斐になっています」と堀田さんは微笑んでくれました。今回もまた、頼もしい若者の話を聞くことができ、嬉しくなってしまいました。
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