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BACKSTAGE COLUMN

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2022.10.19

トラックエンジニアのお仕事とは

SUBARU BRZ GT300のチーム運営を行うR&D SPORTのトラックエンジニアには、本年から同社の井上徳(いのうえ・さとし)が指名されています。ドライバーと対話し、データと照らし合わせてマシンの状態を把握。ロードコンディションなどの環境に合わせて、適正なセッティングを探っていくのが、主な役割です。この井上エンジニアはどのような人物で、どのようなスキルをもって仕事しているのかをSUBARUモータースポーツマガジン編集記者(以下MSM)が直接伺いました。
MSM まずは、井上さんのバックグラウンドを教えていただけますか。
井上 「東海大学の工学部を卒業し、同大大学院を経て東京R&Dに入社しました。大学では、日産自動車のエンジン開発者として知られていた林義正教授ゼミの一期生だったので、もちろん影響を受け、”いつかはルマンへ”と夢見ていました。2000年からは東京R&Dでレーシングメカニック修行をスタートし、その後R&D SPORTへ転籍。2008年には東海大学が林先生の肝煎りでルマン24時間レースにチャレンジすることになり、サポート人員派遣依頼がR&D SPORTに来て私もルマンに参加することになりました。縁とは不思議なものです」
MSM ルマン参戦は良い経験だったのではないでしょうか。
井上 「はい、夢に見たルマンに行けたことは、ものすごく貴重な経験となりました。学生主体のプロジェクトでしたが、オリジナルのパワーユニットとシャシーで戦いました。レースでは、18時間でドライブシャフトが壊れてリタイヤしてしまいましたが、ルマンは例えいくら望んだとしても簡単に参加できるレースではないので、とてもラッキーな体験ができたと思います」
MSM 東京R&Dでは、どのようなことを担当されていたのでしょうか。
井上 「2000年に入社した時は、チームはフォーミュラニッポンに参戦しており、翌2001年から私はオリジナルGTマシンのVEMACの開発をお手伝いしていました。ちょうどその頃、よりレースに専念したいと思い、私は分社したR&D SPORTへ転籍しました。当初はメカニックでしたが、2006年からデータエンジニアとなり、2009年に始まったSUBARU/STIとのコラボチームでは、当初から昨年までずっと同じ業務を担当していました。開発業務の中では、私は空力開発を専門にしています」
MSM トラックエンジニアのお仕事を説明していただけますか。
井上 「まずは、過去のデータやレースウィークの天候などからコンディションを予測し、持ち込みのセットアップを考えます。イベントでは、土曜日のフリープラクティスから条件に合うようにセットアップを修正していき、ドライバーやタイヤが予選で計画通りのパフォーマンスを発揮できるように整えます。決勝レースでは、スタートのポジションによって、燃費やタイヤ摩耗を計算に入れて、ペース配分を考えることになります。また、開発テストでは、あらかじめ決めているテスト項目をこなして、データを蓄積していきます。季節によって使うタイヤも異なってくるので、それに合わせたセットアップも必要となります。昨年までもデータエンジニアとして、データを見ながらセットアップチェンジを進言したりしていたのですが、今年は自分で決断し担当者やドライバーに伝えなくてはならないので、重い責任を感じます」
MSM 井上さんから見て二人のドライバーはどのような性格だと思いますか。
井上 「ふたりとも速いし、チームと付き合いは長いのでセットアップに対する考え方も共有できていますし、いつでも状況に応じて冷静に適切な判断ができるドライバーだと思います。それでも、山内はより負けたくない性分が強いと思います。それがあってポールポジション獲得にも思い入れが強いのでしょうね。時々感情むき出しに、悔しがったり喜んだりしていますから。一方、井口はいつでも穏やかで感情を一気に吐き出すタイプではありませんが、どんな時でも落ち着いてタイヤやクルマの状況を伝えてくれます。今年Q1を走ってもらうことが多いのですが、Q1で走ったイメージからQ2に向けたセットアップ変更が必要な場合、彼のアイディア提案はいつも的確です。それがあって山内がQ2で思い切り走れるという構図になっています。井口が、山内のスタイルを理解した上で、的確な修正を提案してくれるので助かります」
MSM ドライバーの話を聞いていると、セットアップチェンジに関してミリ単位のリクエストということが多いですよね。
井上 「最近では、車高などは0.5mm単位に変更することもあります。どのチームもシビアな領域で競い合っているので、どうしても細かい部分の修正が必要となります。そんな僅かな修正で変化を味方につけ、ドライビングを調整できるのがあのふたりのドライバーなのだと思います。チームとふたりのコンビがうまく機能して信頼関係が築けているので、車重が重い状態が強いられる今シーズンも良い流れに乗れているのでしょう。この流れに従って、結果を追求していきたいと思います」
井上さん、ありがとうございました。今後も良い流れと良い結果を期待しています。
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