SUPER GT

BACKSTAGE COLUMN

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2022.09.02

「目に見えない空気を捉える仕事です」

SUPER GT車やニュルブルクリンク24時間車などのSUBARUレースカーの車体に関する開発業務を担うSTI車体技術部は、群馬県太田市の中心街にあります。SUBARU群馬製作所本工場やSTI整備室のあるSUBARUテストコースにもほど近いオフィスには、車体技術部の設計チームや実験グループのエンジニアが働いています。外気温が35度を超す酷暑のある日、SUBARU MOTORSPORT MAGAZINE記者(以下MSM)はこのSTI群馬オフィスを訪ね、レースカーの空力解析を担当する神先直哉に話を聞きました。
MSM  神先さん、こんにちは。冒頭から失礼ですが、随分とお若いですね。
神先  「私は2019年入社なので、今年で4年生です。大学では機械工学を専攻しており、卒業研究に超高速域における流体力学を選びました。小さい頃からモータースポーツに関連する職業に就きたいと考えていたので、迷わずこの道に進みました」
MSM SUPER GTやNBRでは、空力はかなり重要な要素ですが、どんな領域を担当されているのでしょうか。
神先 「入社して1年目は、ロードカー用のSTIスポーツパーツの設計を担当したのですが、2年目からはレースカーの空力解析と精度確認を担当させていただいています。STIは、過去のWRC出場を始め、長い間に国内外のさまざまなジャンルのモータースポーツで活躍しています。その蓄積された空力ノウハウを吸収したいと思ってSTIを志望したのですが、まさか2年目でこんな重要な役割をさせていただくとは、本当にラッキーだと思います」
MSM いやいや、相当プッシュして自分を売り込まないと普通はあり得ないですね。
神先  「はい、実はその通りです。”私を使わないと損をしますよ”的な空気感を醸し出していたと思います(笑)」
MSM 最近のSUBARU BRZ GT300の開発の話を聞いても良いでしょうか。
神先  「はい、先日の富士戦で優勝した興奮もあるのですが、今はとってもこの仕事に打ち込むことにやりがいを感じています。今年のGT300は、先代モデルで良い結果を示している要素をベースに、さらに洗練させる開発を行っています。大きな特徴であるフロントフェンダー後端のアウトレット形状は、2021年モデルでエンジン房内に導入するエアが増えたことに対応して、効率的に内部のエアを抜く形状になっています。もちろん空力的なバランスも考慮の上です。本当にシビアな世界なので、現場ではいつもデータと睨めっこしています。それでも、最終的にはドライバーのリクエストが優先されます。富士ではフリープラクティスと予選ではフロントにカナードを装着して走っていますが、ウォームアップではフリックボックス、そして決勝直前にカナードに戻しています。また、リアウィング角度も0.5度刻みで調整しているので、その差は見た目にはわからないと思いますが、ドライバーは敏感にその差を感じてクルマをコントロールしています。それら目に見えない空気の流れや作用を捉えるのが、私たちの仕事です」
MSM 最近BRZ GT300が安定して速いのは、その辺に秘訣があるのでしょうか。
神先  「BRZはハンドリングマシンと言われ、細かい切り返しのある富士第3セクターなどは以前から得意なのですが、それ以外でもタイムを削れないと勝負にならないので、特に100Rを思い通りに走れるようにしたいとのリクエストがあり、相当気合を入れて解析しました。また、ブレーキング時にリアが浮きすぎないようにとか、速いクルマの後ろを走ってもダウンフォースが抜けないようにしたいとか、一般的には相反する課題もありますが、私らも解決策を一生懸命探します。車体姿勢などは空力だけの問題ではなく、サスペンションや他の要素との関係もあるので時間はかかりますが、走行テストで良い結果がでると正直嬉しいです。さきほども話しましたが、年齢や経験に関わらず、積極的に発言すればトライさせてもらえるSTI社内、チームの雰囲気は最高です。しかし、私たちもアイディアが出せなくなったら、クビになる覚悟で仕事をしています」
MSM おそらくオフィスではモニターと合い対峙して膨大なデータを処理する毎日だと思います。さて、休日はどのように過ごしていますか。
神先   「私は関西出身なのですが、東京育ちで長く関東で暮らしています。そんな都会を離れて、モーターサイクルでツーリングに出かけることはありますが、今年から登山に目覚めまして。すでに日本の標高トップ3名山は制覇していて、来年までにベスト10制覇を目指しています。そうそう、登山をしていると自然界に生きる生物に目が留まります。清流を遡上する川魚、悠々と空を飛ぶ鳥や虫を眺めていると、空力開発に応用できることはないかな、と考えてしまいます」
今回も頼もしいSUBARUエンジニアの横顔を眺めることができました。神先のように情熱とアイディアに溢れる若者たちが、速く強いレースカーを開発し、育成する原動力になっています。
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