2年連続のチャンピオン獲得という目標に向けて戦ったSUBARU/STIのSUPER GT 2022年シリーズは、終了しました。残念ながら念願は叶いませんでしたが、最終戦で見せた全力で攻める姿勢は、とても潔いものだったと思います。来シーズンは、さらにチーム総合力を磨き上げ、チャンピオン奪還に向けて挑んでくれることでしょう。さて、このコラムも今シーズンは最終版となります。今回は、チームの裏方の「妥協なき拘り」について、STIパワーユニット技術部SGTエンジン開発プロジェクトの川端大介と吉原健介のふたりに話を伺いました。(MSM=スバルモータースポーツマガジン編集部記者)

MSM　今シーズンのBRZ GT300は、チャンピオンを獲得した昨年にも増して迫力がありましたね。
吉原　昨年のクルマは、前モデルの良いところを継承しながらも、さらに妥協ない拘りを随所に盛り込んだクルマでした。その長所をさらに磨き上げたのが、今季だったと思います。私たちは、現場からの要求をいかに現実のものにするかを日々考えて、設計に活かすのが仕事であり、時間のかかるものです。

MSM　その2021年モデルの拘りについて、少しお話を聞かせていただけますか。
川端　まず、2021年車では、車体全体でマス(集合体)の集中化を進めようということになりました。2年前の2020年のことです。私たちとしては、当然エンジン回りの補機類を集中化することになりました。それまでのマシンは、リアセクションにオイルタンクを置き、フロントフード内のオイルポンプまで配管を伸ばしていました。もちろん、それには理由がありました。水平対向エンジンは、他の4気筒直列エンジンに比べて横幅が広く、エンジン房内にオイルタンクを置くことが難しかったからです。

MSM　確かにそうですね。しかし、それを知恵で解決したわけですよね。
川端　従来のエンジンオイルタンクは、リアセクションの中心近くトランスアクスルの上に縦型に配置していました。レースカーが左右にロールしようとする時、エンジンオイルが均等に揺れることが望ましいからです。しかし、車体前方のエンジン房内には円筒形のタンクを中央配置するスペースは残されていませんでした。そこで私たちはR&Dスポーツと協力して、エンジンの右バンク横のわずかなスペースに合わせた形状のオイルタンクを新たに設計し、配置することにしました。フロントにタンクを置けば、無駄な配管を省くことができ、さらにオイル総量も減らすことができます。

MSM　車体製作を担うR&Dスポーツとの連携によって、課題は解決したわけですね。
吉原　オイルタンクの設計というのは、実はそう簡単なものでもないのです。強烈な旋回Gの影響を受ける場所にあるため、タンク内で気泡を発生してはならない。Gによってオイルが偏って気泡を作ってしまうと、ブロック内部に送った際に油膜が途切れてエンジン内部にダメージを与えてしまうからです。

川端　そのため、各コースの走行Gを計測して分析し、オイルタンク内の流れを解析する作業を開始しました。だいぶ根気のいる作業であり、テストを繰り返すことで開発期間は約3ヶ月に及びました。また、ブローバイが多いと設計は差し戻しとなってしまいますので、手間がかかるのです。しかし苦労の末に、設計手法を確立することができ、オイルの適正な流れをゼロからまとめあげることに成功しました。タンク内でオイルが暴れてしまうと、Rの小さいコーナーで車体の挙動変化に影響を及ぼします。みなさんご存じと思いますが、BRZ GT300の最大の武器はタイトコーナーでの旋回性能です。それを阻害するわけには行かないので、責任感と義務感を持って作業にあたったことを昨日のことのように記憶しています。

MSM　マスの集中による車体挙動の改善だけでなく、BRZ GT300の最大の武器を守っているということですね。
吉原　小澤正弘総監督やR&Dスポーツからも評価をいただいたので、私たちもホッとしました。今年一年間の活躍を見ても、ちゃんと安定した性能を発揮していると思います。もちろん、チーム運営とメンテナンスを担当していただいているR&Dスポーツの工夫もあるので、大変感謝しています。

川端　また新たなシーズンに向け、私たちもチームも一丸となって新しいアイディアを練っていくことになると思います。私たちは、レースウィークの現場には行くことはほとんどありませんが、映像やデータを通じてBRZレースカーがどうなっているかを常にモニターしています。まったくの黒子ですが、こういうメンバーがレースカーの活躍の裏側にいることを知っていただければ幸いです。